Column コラム

2025.03.03

医師の働き方改革における課題や問題点について解説

医師の働き方改革が2024年にスタートしてから、時間外労働の上限規制をはじめとした取り組みが実施されています。しかしながら、医療現場には医師の働き方改革を進める上での課題があり、取り組みをスムーズに導入できているとは言い切れません。

医療機関が医師の働き方改革を進めるには、現状の課題を把握し、適切に対処していくことが大切です。

今回は医師の働き方改革における課題や問題点を解説した上で、医師の働き方改革を進めるためのポイントも紹介します。

医師の働き方改革とは

医師の働き方改革とは、医師が健康的に安心して働ける労働環境を整備する取り組みのことです。2019年4月1日から順次施行されている「働き方改革関連法」にもとづく内容となっていて、医師の働き方改革は2024年4月1日から施行されました。

医師の働き方改革の内容として、医療機関側が主体的に行う3つのポイントを紹介します。

時間外労働の上限規制の適用

勤務医や医療機関をA水準・B水準(連携B・B)・C水準(C-1・C-2)の3つに分類し、各水準に応じて医師の時間外労働と休日労働時間に上限が設けられました。

A水準は一般の勤務医を対象としており、月100時間未満・年960時間以下が上限です。

また、B水準は救急医療などを提供する医療機関、C水準は臨床・専門研修や高度な技能の修得研修を行うプログラムが該当し、月100時間未満・年1,860時間以下が原則の上限です。

なお、B水準は2035年度末に終了が予定されており、C水準も縮減するという方針になっています。

追加的健康確保措置の実施

一般的な時間外労働の上限(月45時間・年360時間)を超えて医師が働かざるを得ない場合、追加的健康確保措置を実施する必要があります。

追加的健康確保措置とは、一般会社員に行われる健康福祉確保措置を上回る措置のことです。具体的には下記の内容となっています。

連続勤務時間制限宿日直許可を受けた当直明けのケースを除き、原則として連続勤務は前日の勤務開始から28時間が上限です。
勤務間インターバル勤務終了後から次の勤務開始まで、一定時間の休息時間を設けることが定められています。
代償休息やむを得ない事情により勤務間インターバルを実施できなかった場合、代わりとなる休息を与えることが定められています。
面接指導医師の時間外労働が月100時間以上のとき、もしくは月100時間を超える前に、専門医による面接指導を実施します。
就業上の措置面接指導の結果にもとづき、医師の健康確保に必要な就業上の措置を実施します。

なお、連続勤務時間制限・勤務間インターバル・代償休息の3つはA水準では努力義務、B水準・C水準では義務とされています。面接指導・就業上の措置は、すべての水準で義務とされている内容です。

タスクシフト/シェアの推進

タスクシフト/シェアとは、医師が従来行っていた業務のうち、他の医療従事者でも行える業務を移管したり共同化したりする取り組みです。看護師が特定行為に携われるようになる特定行為研修の実施や、診療放射線技師・臨床検査技師・臨床工学技士・救急救命士の業務範囲の見直しなどがおこなわれています。

参考:厚生労働省ホームページ「医師の働き方改革

医師の働き方改革が他業種より遅れた理由

医師の働き方改革が施行された背景には、日本の医療が医師の長時間労働によって支えられていた現状と、医師の長時間労働による健康被害があります。

しかし、働き方改革関連法が2019年4月1日から施行されていたのに対し、医師を含め一部の業種では働き方改革の実施に5年間の猶予期間が設けられていました。医師の働き方改革が一般的な職業よりも遅れた理由には、医業の特殊性が挙げられます。

まず診療に従事する医師には、患者から診察や治療の要求があった場合に正当な自由がなければ拒んではならないという「応召義務」があります。時間外労働の上限規制を導入するには、応召義務との調整が必要とされていました。

また、地方の医療機関では少人数の医師で医療を提供しているケースが多く、時間外労働の上限規制は地域医療への影響が大きいという事情もあります。

医業にかかわる2つの特殊性により、医師の働き方改革はさまざまな特例や制度の設置を経て、2024年4月1日から施行されました。

医師の働き方改革によって何が変わるのか

医師の働き方改革によって何が変わるのか

医師の働き方改革が施行される以前は、時間外労働が年1,860時間を超える医師が少なからず存在しました。医療機関と医師が36協定の特別条項を結べば、年間6か月までは上限時間の規定なく勤務できたためです。

しかし、医師の働き方改革が施行されたことで、医師の時間外労働には最大でも年1,860時間の上限が設けられました。追加的健康確保措置の導入とあわせて、医師が健康的に働ける職場環境の整備が進むと考えられます。

また、他医療従事者へのタスクシフト/シェアも推進されれば、医師の業務負担のさらなる軽減が期待できるでしょう。

医師の働き方改革で医師の健康が確保されることは、医療の質と安全性の向上に寄与し、医療提供体制の維持につながります。

医師の働き方改革における課題

医師の働き方改革における課題

医療現場には、医師の働き方改革の障害となり得る課題がいくつか存在します。医師の働き方改革に取り組む医療機関は、まずは働き方改革の課題や問題点を把握することが重要です。

以下では、医師の働き方改革を進めるときに注意したい5つの課題を紹介します。

医療従事者の人手不足が深刻化している

日本国内では医師をはじめとした医療従事者の人手不足が深刻化しています。特に医師は人数こそ増えているものの、医師が都市部に集中する「地域偏在」や一部の診療科に集中する「診療科偏在」があり、需要に見合った供給ができていません。

厚生労働省がまとめた医師の需給推計を参考にすると、医師の労働時間を週60時間程度に制限した場合、医師の需給が均衡するのは2029年頃とされています。

週60時間程度の制限は年間960時間の時間外・休日労働に相当し、医師の働き方改革におけるA水準と同等です。2025年現在では、医師の働き方改革におけるA水準のみでは需要を満たすことができず、B水準・C水準の運用が必要とされている状況です。

参考:厚生労働省ホームページ「令和2年医師需給推計の結果

しかし、医療機関によっては医師の人手不足で労働時間の削減が難しく、将来的に労働時間をA水準に揃えることは困難であると考えられます。

医療の質が低下する可能性がある

医師の長時間労働によって医療を提供できていた医療機関では、医師の働き方改革で医療の質が低下する可能性があります。働き方改革によって時間外労働の上限ができると、通常の診療に影響が出るケースもあるためです。

特に医師の新規雇用が難しい病院では、勤務医の時間外労働を単純に削減することが難しい現状があります。タスクシフト/シェアで対策できる業務範囲にも限界があるため、医師の働き方改革を推進するには他の手段も講じる必要があるでしょう。

医師は勤務実態が把握しにくい

医療機関には多くの医師が勤務していて、勤務形態も日勤・夜勤や宿直、3交代制などさまざまです。訪問診療をおこなったり、複数の医療機関に勤務したりする医師もおり、勤務実態が把握しにくい点が働き方改革の障害となり得ます。

たとえば医療機関が医師の副業を把握している場合、自院での労働時間と副業先の労働時間を合算して、労働時間の管理をおこなわなければなりません。副業の働き方によっては労働時間が変わることがあるため、労務管理が複雑化します。

また、宿日直の時間を労働時間の上限規制から除外する「宿日直許可」を取得している医療機関では、宿日直を担当する医師の勤務実態が把握しにくくなる問題もあります。宿日直許可によって医師の労働時間が見た目上は削減できても、実態として医師の業務負担が増加している場合は働き方改革につながりません。

世代や職位によって働き方改革への意識が異なる

医師の働き方改革は医師の過重労働を抑制する効果が見込めるものの、すべての医師が働き方改革を歓迎しているとは限りません。働き方改革への意識は世代や職位によって異なり、働き方改革の取り組みを推進するにあたっての障害となる可能性があります。

たとえばベテラン医師の中には、長時間労働の規制が若手医師の成長を阻害するという考え方を持つ方がいます。長時間労働の規制は副業・兼業先にも影響が出るため、医師の年収減少を懸念する声も少なくありません。

特に上級医や指導医が働き方改革に理解を示していない医療現場では、研修医の長時間労働が発生する可能性があります。医療機関が働き方改革を進めるには、働き方改革の意識を組織全体に浸透させることが重要です。

地域医療体制の構築が難しくなる

医師不足に悩む地方の医療機関では、医師確保の手段として他医療機関などからの医師派遣がおこなわれていました。

しかし、医師の働き方改革によって医師派遣先の労働時間も管理する必要が生じたため、派遣元の医療機関で医師の派遣を止める動きが出ています。

医師派遣が停止すると、派遣先の医療機関では当直やオンコール対応ができなくなり、医療体制を縮小せざるを得ません。医師の働きやすい環境を作るための働き方改革が、結果として地域医療体制の構築を難しくしているという課題があります。

医師の働き方改革を進めるためのポイント

医師の働き方改革を進めるためのポイント

医師の働き方改革にはいくつかの課題が存在するものの、医師の待遇改善や離職防止、ヒューマンエラーの発生を防ぐためには働き方改革の取り組みを推進する必要があります。

時間外労働の上限を超えると労働基準法違反となり、「6か月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金」という罰則もあるため、ポイントを押さえて働き方改革をおこないましょう。

最後に、医療機関が医師の働き方改革を進めるためのポイントを5つ紹介します。

医療人材の確保を進める

医師の時間外労働を削減するには、医療人材の確保を進めることが大切です。求人活動や離職防止の取り組みをおこなって医療人材を確保し、医師1人あたりの業務負担を減らせるようにしましょう。

医療人材の確保では医師や看護師はもちろん、診療放射線技師・臨床検査技師などの専門職も病院の規模に応じて雇用する必要があります。働き方改革の取り組みの1つであるタスクシフト/シェアはさまざまな職種の医療従事者がいなければ実施できないためです。

また子育て・介護などへの補助制度や、資格取得支援などの福利厚生を充実させることも、医療人材確保に向けた取り組みとして有効です。

医療DXにより業務効率化をする

医療DXとは、医療分野におけるデジタル技術の活用により、医療の質や業務効率を高める取り組みのことです。医療DXを進めれば少ない人員でも質を落とさずに業務を遂行できます。

たとえば電子カルテを通じた情報共有の推進や、オンライン予約システムの導入などが医療DXの取り組み例です。他にもパソコン・スマートフォンを用いたオンライン診療の実施、遠隔画像診断システムによる読影業務の効率化という方法もあります。

医療DXは医師にとって負担になりやすい事務作業の効率化や、遠隔地との情報共有を簡単に行えるメリットがあります。人材確保が難しい医療機関は、医療DXによる医師の働き方改革の実施を検討するとよいでしょう。

医師の勤務時間を管理できるシステムを導入する

医師の時間外労働を正確に把握するために、労務管理システムの導入を検討しましょう。

労務管理システムとは、従業員の労働時間・賃金・労働条件などを効率的に管理できるツールです。労務管理システムを導入することで医師の勤務実態を把握しやすくなり、時間外労働の上限を超える働き方を防げます。

また、追加的健康確保措置の実施判断をするときにも労務管理システムは便利です。医師ごとに異なる働き方であっても連続勤務時間制限や勤務間インターバルを管理でき、医師の健康に対する措置を的確に実施できます。

働き方改革への取り組みを医療機関全体で周知・共有する

世代や職位によって働き方改革への意識に差がある状態では、長時間労働の抑制や医師の待遇改善はなかなか進められません。医師の働き方改革を本格的に実施する前に、医療機関全体で情報を周知・共有することが大切です。

医療機関全体での周知・共有をする手段としては、院内報への情報掲載や、カンファレンスでの連絡が挙げられます。働き方改革の周知に役立つ資料は厚生労働省が用意しているため、活用するとよいでしょう。

参考:
いきいき働く医療機関サポートWeb(いきサポ):「「学ぶ」・「話す」・「作る」を叶える!医師の働き方改革解説スライド
厚生労働省ホームページ:「「医師の働き方改革に関するQ&A」等について(周知依頼)

また、医師の働き方改革への取り組みは患者さまにも理解を求める必要があります。病院ホームページ上での情報掲載や、院内にパンフレットを設置する方法も有効です。

他医療機関との連携や外部医療サービスの利用を検討する

今まで医師の長時間労働が多く発生していた医療機関では、医師の働き方改革を自院のみで完結させることは簡単ではありません。他医療機関との連携の強化や、行政が用意する支援制度の利用を検討しましょう。

また、外部医療サービスを利用する方法もおすすめです。外部医療サービスとは民間事業者が提供する医療関連サービスのことで、病院内で発生する一部業務を委託できます。たとえば、読影業務を委託できる遠隔画像診断サービスが外部医療サービスなどです。

外部医療サービスに委託した業務は自院の人的リソースを割く必要がなくなり、医師の働き方改革につながります。

まとめ

医師の働き方改革は2024年4月にスタートしたものの、医療現場には人手不足や医療の質低下などの課題があります.

医師の働き方改革は2024年4月にスタートしたものの、医療現場には人手不足や医療の質低下などの課題があります。医師の働き方改革を進める医療機関は、紹介したポイントを参考に働き方改革の取り組みを実施しましょう。

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