Column コラム
2025.01.31
医療DXとは?定義やメリット、導入するべきシステムについても解説

近年の医療業界では、業務効率化や医療サービスの質を向上させる取り組みが進められています。それに伴い、デジタル化・DX化が推進されているものの「医療DXとはそもそも何なのか」「導入することでどのようなメリットがあるか」を知りたい方は多いでしょう。
医療DXを実現できるシステムはさまざまなものが登場しているため、医療DXの概要を把握した上で、医療機関ごとに適したシステムを選ぶことが大切です。
そこで本記事では、医療DXの定義や、推進されている背景と導入のメリット、医療機関が導入するべきシステムまでを徹底解説します。
医療DXとは?医療DXの定義と目的

医療DXとは、医療機関においてデジタル技術の導入と活用を目指す取り組みのことです。
まずDX(デジタルトランスフォーメーション)とは、AIやIoTなどのデジタル技術を活用して業務プロセスを変革する取り組みを指します。デジタルの活用によって新たな価値を創出し、変化の激しい市場で競争優位性を保つことがDXの主な目的です。
日本の企業はレガシーシステムや古い企業風土からなかなか抜け出せない問題があり、多くの業種・企業においてDXを推進する動きが目立っています。
このように経済成長を目的とするDXに対して、医療DXの主な目的は「デジタル技術の活用によって医療の質や業務効率を向上させること」です。
医療機関は患者様の健康を支え、必要な医療を提供することを使命としています。しかし、医療機関を取り巻く環境は時代とともに大きく変化しており、質が高く効率的な医療を提供し続けることに課題が発生している医療機関も少なくありません。
医療DXは、医療従事者の業務をサポート可能なデジタル技術を導入する取り組みであり、医療機関が抱える課題を解決できる手法として期待されています。
厚生労働省も医療DXを重要な課題として捉えており、医療DX関連事業を共有・検証する「医療DX推進本部」の設置や、医療DXにかかわる補助金の整備などをおこなっています。
参考:厚生労働省ホームページ「医療DXの更なる推進について」
医療DXが推進されている背景

医療DXが推進されている背景には、多くの医療機関が抱える課題の存在があります。以下で紹介するような課題に悩んでいる医療機関の方は、医療DXの導入を検討してみるとよいでしょう。
医療機関の人手不足が深刻化している
日本は高齢者の人口が増え続けており、医療や介護の需要が増加しています。医療機関では医師や看護師といった医療従事者の確保を試みているものの、医療需要に対する供給のバランスが取れなくなりつつあることが、人手不足が深刻化している理由です。
医療機関が人手不足になると、医療従事者1人あたりの業務負担が増えて業務効率が低下します。ヒューマンエラーも発生しやすくなり、医療の質を維持することは困難となるでしょう。
また、医師の働き方改革が2024年に始まったことにより、医師の時間外労働に上限が設けられるようになりました。医療機関は医師が長時間労働をせずに済むよう、医師の業務負担を軽減できる仕組み作りが必要です。
以上のように、医療機関は人手不足によって業務効率化の重要性が高まっており、医療DXを推進する動きが見られるようになっています。
医療業界はデジタル化が遅れている
医療業界全体では電子カルテシステムやオーダリングシステムの導入が推進されているものの、中小規模の医療機関ではデジタル化が遅れているといえます。
厚生労働省によると、2020年における電子カルテシステム・オーダリングシステムの普及率は以下の通りとなっていました。
導入システム | 一般病院 | 一般診療所 | |||
全体 | 400床以上 | 200~399床 | 200床未満 | ||
電子カルテシステム | 57.2% | 91.2% | 74.8% | 48.8% | 49.9% |
オーダリングシステム | 62.0% | 93.1% | 82.0% | 53.3% | – |
参考:厚生労働省ホームページ「医療分野の情報化の推進について」
紹介した2例のデジタル技術は、病床数が多い病院では普及率が高く、積極的に導入されています。一方、200床未満の病院や一般診療所では普及率が50%前後に留まっていました。
デジタル化が遅れると事務作業により多くの手間と時間がかかり、業務効率の低下を招きます。特に電子カルテシステムは導入の必要性が高まっているため、中小規模の医療機関においても医療DXを推進する必要があるでしょう。
都市部と地方での医療格差が拡大している
医療DXが推進されている背景には、都市部と地方での医療格差の拡大も関係しています。
都市部と地方では医療機関の数に差があり、それぞれの地域の居住者が利用できる医療には、質と量の点で格差が存在します。さらに現代は都市部への人口集中が続いていて、医療従事者も都市部に集まりやすい傾向があるため、医療格差は拡大している状況です。
より多くの患者様に質の高い医療を提供するために、オンライン診療などの医療DXによって医療機関が担う機能や役割を拡大することが求められています。
医療DXを導入するメリット

医療DXの導入を検討するときは、医療DXにどのようなメリットがあるかを知っておきましょう。医療DXを導入するメリットを知ることで、自院の課題を医療DXで解決できるかが分かり、導入の目的を明確化できます。
以下では医療DXを導入する主なメリットを4つ紹介します。
医療現場の業務効率化が実現できる
医療DXを導入すると事務作業や情報共有の業務負担が軽減されます。カルテの作成・管理などの事務作業は医療従事者への負担が大きい業務であり、医療DXによって医療現場の業務効率化を実現できる点がメリットです。
業務効率が向上すれば少ない人員でも業務を遂行できるようになり、人手不足の対策ができます。医療従事者が残業や休日出勤をする頻度が少なくなり、長時間労働の防止にもつながるでしょう。
また、オーダリングシステム・オンライン診療システム・遠隔画像診断システムなどを導入すれば、医師が診療において物理的な対応を取る手間も減らせます。医師の業務負担を減らせるため、働き方改革に対応できる労働環境を構築することが可能です。
経営コストの削減につながる
医療DXの導入はペーパーレス化の推進でもあり、書類の電子データ化によって経営コストの削減につながるメリットがあります。
カルテなどの書類を紙媒体で作成・管理する場合、用紙代・インク代・印刷代といった書類作成の費用や、保管スペース確保などの保管費用が発生します。患者様ごとに作成するカルテは膨大な量であり、5年間の保存期間が義務付けられているため、作成・保管にかかる負担が大きくなっている医療機関も多いでしょう。
医療DXによってペーパーレス化を推進すれば、カルテなどの書類を電子データとして作成して、クラウド上で管理できます。紙媒体のときよりも作成・管理にかかる費用が少なくなり、経営コストの削減が可能です。
医療の質が向上する
医療DXを導入することで、医療従事者は手間と時間がかかる定型業務に労力を割く必要性が少なくなります。医師は患者様への医療の提供、看護師は看護ケアと医師のサポートなどより重要性が高い業務に集中できるようになり、医療の質が向上します。
医療の質の向上は、患者様の満足度向上にもつながるポイントです。患者様の満足度は病院の収益はもちろん、クレームが発生しやすいかどうかにも影響します。
患者様の満足度が向上すればクレームが発生しにくくなり、医療従事者がクレーム対応に煩わされずに働きやすくなるでしょう。
医療機関同士の情報共有がしやすくなる
医療DXによって診療データをクラウド上で管理できれば、異なる医療機関同士でも情報共有がしやすくなります。医療機関同士の情報共有は、医療格差を是正するために有効な方法の1つです。
都市部と地方の医療機関が連携すれば、地方の患者様も最新医療を利用しやすくなります。地方の医療機関では対応が難しい疾患も、連携する医療機関の協力によって治療できるようになり、患者様により質の高い医療を提供できるでしょう。
また、医療機関同士だけではなく、患者様に対しても診療データの共有ができます。患者様が自身の診療データを把握することで健康管理をしやすくなり、医療にも積極的に参加することが期待できます。
医療DXで導入するべきシステム6選

医療DXを進めるには、業務プロセスの変革を実現できる具体的なシステムを知っておくことが重要です。
最後に、医療DXで導入するべきシステムを6つ挙げて、それぞれのシステムの特徴や導入によってできることを解説します。
オンライン資格確認システム
オンライン資格確認システムとは、医療機関がマイナンバーカードを利用して被保険者資格の確認ができるシステムです。
オンライン資格確認は、マイナンバーカードが保険証としても利用できるようになった2021年3月にスタートしました。2024年12月にはマイナンバーカードと健康保険証が一体化した「マイナ保険証」になったことで、オンライン資格確認の重要性が高まっています。
オンライン資格確認の導入は2023年4月に原則義務化されたものの、2024年12月時点においても導入していない医療機関は少なからず見られる状況です。
厚生労働省はマイナ保険証によるオンライン資格確認を医療DXの基盤として位置づけているため、医療機関はオンライン資格確認の導入が必要となるでしょう。
電子カルテシステム
電子カルテシステムとは、患者様の診療内容などを記録するカルテ(診療録)を電子データとして作成し、データベースで管理できるシステムのことです。
電子カルテは診療データの保管・抽出がしやすくなり、業務効率化や経費削減効果といったメリットがあるため、多くの医療機関で導入されています。また、関連する下記のシステムも導入を検討するとよいでしょう。
- 電子カルテ情報共有サービス
患者様の電子カルテ情報を、患者様の同意を得た上で全国の医療機関や薬局と共有できるシステムです。医療機関の事務コスト削減や業務効率化を実現するとともに、患者様に質の高い医療を提供できるメリットがあります。
電子カルテ情報共有サービスの運用開始は2025年4月に予定されています。 - 電子処方箋システム
従来は紙で発行していた処方箋を、電子データで運用できるようになるシステムです。処方箋を電子化できるだけではなく、処方・調剤情報や重複投薬などのチェックもできるため、処方箋管理にかかわる業務の効率化につながります。電子処方箋システムの運用は2023年1月にスタートしています。
オンライン予約システム
オンライン予約システムとは、患者様が医療機関の診療予約をオンライン上でおこなえるようになるシステムです。診療予約のためだけに来院や電話をする必要がなくなり、患者様の利便性を高められます。
また、オンライン予約システムは問診票への記入に対応しているケースもあります。予約から問診までをオンラインで完結すれば、患者様は来院してからすぐに診療を受けられるため、満足度の向上につながるでしょう。
予約管理は医療機関にとっても負担が大きい業務です。オンライン予約システムによって診療予約を一括管理することで、予約管理業務の効率化ができます。
オンライン診療システム
オンライン診療システムとは、ビデオ通話やチャットを使用して患者様に診療を提供できるシステムです。
オンライン診療は、医師と患者様との物理的な距離にかかわらず対応できることが特徴です。過疎地域や離島などの遠隔地にいる患者様にも医療を提供できるため、地域性による医療格差の是正に役立ちます。
また、在宅医療を選択した患者様への診療や、退院後のアフターフォロー、感染症に罹患している患者様の遠隔での診療といった使い方もできるでしょう。
共通算定モジュールの導入
共通算定モジュールとは、診療報酬改定DXの推進に伴って開発を進められているシステムのことです。
診療報酬改定DXとは、2年ごとの診療報酬改定に対応するための各種作業をDX化させる取り組みを指します。
診療報酬の改定は3月に公示され、医療機関は同年4月1日の改定施行日までに対応しなければなりません。システムのアップデートなどにかけられる時間が短く、診療報酬改定の作業は医療機関にとって大きな負担となっていました。
診療報酬改定DXでは、各ベンダーで統一された「共通算定モジュール」を導入することで、システムのアップデートを素早く完了できるメリットがあります。診療報酬改定にかけていたリソースを他の業務にあてられるようになり、経費削減や業務効率化が実現可能です。
ただし、共通算定モジュールはまだ開発段階であり、本格的な提供は2026年以降に予定されています。実現すればメリットが多いシステムであるため、将来的に導入できる方法の一つとしてご検討ください。
遠隔画像診断サービス
遠隔画像診断サービスとは、医療機関がCT検査・MRI検査などで撮影した画像をオンラインで共有し、遠隔地の病院や企業へ画像診断を依頼できる仕組みです。
CT検査やMRI検査では多くの画像が撮影されていて、医療機関内で読影を担当する読影医に大きな負担がかる傾向があります。遠隔画像診断サービスを利用して外部に画像診断を依頼することで、自院の読影医の業務負担を軽減できるでしょう。
対策型検診のように読影業務が多いケースや、自院の読影医が少ないというケースでも、遠隔画像診断で読影業務を外注できれば健診・検診をスムーズに実施できます。
まとめ

医療DXは医療機関がデジタル技術の導入と活用を目指す取り組みであり、人手不足や医療格差といった課題の解決につながることが期待できます。業務効率化や経営コストの削減、医療の質の向上など多くのメリットがあり、医療DXは導入の意義が大きいといえるでしょう。
医療DXで導入するべき取り組みはさまざまなものがあります。なかでも遠隔画像診断システムの導入は、読影医の業務負担軽減と読影業務の効率化を実現できる取り組みです。
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