Column コラム

2025.05.08

医師偏在はなぜ起こる?問題点や対策について解説

医師偏在はなぜ起こる?問題点や対策について解説

医師偏在はなぜ起こる?問題点や対策について解説

現在、医療業界では人材不足に悩まされる医療機関が増えています。医療機関の経営や人事・労務担当をしていて、医師や看護師の不足に悩まされている方も多いことでしょう。

このような課題が生まれる要因の1つに「医師偏在」があることをご存知でしょうか。

医師偏在が起こる原因はいくつかあり、原因によって効果的な対策方法が異なります。 そこでこの記事では、医師偏在がなぜ起こるかを説明したうえで、医師偏在による影響や問題点と具体的な対策方法を解説します。

医師偏在とは

医師偏在とは

医師偏在とは、医師の人数が特定の地域や診療科に偏っていて、適切に配置されていない状態のことです。一般的には医師数の過剰よりも、特定の地域や診療科において医師数が不足していることが問題視されています。

医師偏在には「地域偏在」と「診療科偏在」の2種類があります。

地域偏在について

地域偏在とは、特定の都道府県や地域に医師数が偏っている状態のことです。人口の多い都道府県や都市部のほうが医師数は多く、人口の少ない都道府県や地方部は医師数が少ない傾向にあります。

医師数が少ない都道府県や地域では、地域の医療ニーズを満たせなくなる可能性があるのです。

医師の地域偏在を示すものには、厚生労働省が算出する「医師偏在指標」があります。この指標は「標準化医師数÷(地域の人口÷10万×地域の標準化受療率)」で計算され、相対的に状況を把握するための参考となります。

2024年1月時点の医師偏在指標(都道府県別)では、下記の16県が医師少数の都道府県とされています。

  • 青森県
  • 岩手県
  • 秋田県
  • 山形県
  • 福島県
  • 茨城県
  • 埼玉県
  • 群馬県
  • 千葉県
  • 静岡県
  • 新潟県
  • 長野県
  • 岐阜県
  • 三重県
  • 山口県
  • 宮崎県

参考:厚生労働省ホームページ:「医師偏在指標

診療科遍在について

診療科偏在とは、特定の診療科に医師数が偏っている状態のことです。診療科偏在が起きている医療機関では、該当の診療科で医療の提供継続が困難になる可能性があります。

医師の診療科偏在についても厚生労働省がデータをまとめています。2022年時点では内科の医師数が約12万人に対し、外科の医師数は約2万7,000人でした。小児科や産科・産婦人科など医師数が2万人以下の診療科も多く、診療科偏在が深刻化していることが分かります。

また若手医師を中心に、美容外科で働く医師が増えていることも特徴です。美容外科で働く医師は収入を高めやすく、外科の専門研修に進んだ研修医が、研修を途中でやめて美容外科に転科するケースもあるといわれています。

参考:厚生労働省ホームページ「今後の医師偏在対策について

医師偏在が起こる3つの理由

医師偏在が起こる3つの理由

厚生労働省がまとめた情報によると、日本国内の医師数は増加傾向にあります。

参考:厚生労働省ホームページ「医師・歯科医師・薬剤師統計の概況

しかしながら、医師偏在による地域ごとや診療科ごとの医師不足は発生している状況です。

以下では、医師偏在が起こる主な理由を3つ紹介します。

都市部での勤務を希望する医師が多い

医師の地域偏在が起こる主な原因は、地方よりも都市部での勤務を希望する医師が多いことです。

地方のなかでも、特に医師が少ない地域では生活環境や交通環境が整っていない場合が多く、医師が生活に苦労することが考えられます。対して都市部は生活環境が整っているため、生活や仕事の利便性から都市部の医療機関を希望する医師が多いのでしょう。

また2004年にスタートした新臨床研修制度も地域偏在の原因の1つといわれています。新臨床研修制度では研修医が研修先の医療機関を自由に選択できるため、医局での研修を希望する研修医が減少しました。大学医局が医師を派遣できなくなるケースも発生し、地域ごとの医師数の不均衡を招いています。

診療科によって医師の働き方や処遇に違いがある

診療科偏在の原因として、診療科によって医師の働き方や処遇に違いがあること考えられます。

例としては、外科・小児科・産婦人科といった一部の診療科では訴訟リスクが高いことが懸念され、若手医師が集まりにくくなっています。

また、診療科ごとに時間外・休日労働時間の違いもあります。厚生労働省が2022年に実施した調査によると、外科・脳神経外科・形成外科・産婦人科・小児科といった診療科において長時間労働が多い傾向がありました。長時間労働が発生しやすい診療科は業務負担が大きく、若手医師に避けられやすいのです。

参考:厚生労働省ホームページ「医師の勤務実態について

医師の働き方への意識が変化している

地域偏在・診療科偏在に共通する原因として、若手医師を中心に医師の働き方への意識が変化していることが挙げられます。具体的には、医師の将来性やワークライフバランス、タイム・コストパフォーマンスを重視する考え方への変化です。

例として医師の職業意識では、ベテラン医師は医業への高い使命感を持つ人が多い一方、若手医師は使命感を持つ人が比較的少ない傾向にあります。

また、若手医師はキャリア形成で収入の高さやワークライフバランスを重視する人が多いことが特徴です。長時間労働への忌避感も強く、働きやすい職場を希望する人が多い傾向となっています。 地域偏在・診療科偏在のどちらであっても、解消するには若手医師の獲得が重要です。対策を考える際は、働き方に対する意識の変化を理解する必要があるでしょう。

医師偏在による医療への影響と問題点

医師偏在による医療への影響と問題点

医師の地域偏在や診療科偏在によって医師数が減少すると、地域医療体制の維持が困難になったり、医師の業務負担が増加したりといった影響が出ます。患者さまが必要とする医療を提供できなくなり、医療の質が低下するおそれもあるでしょう。

とくに着目すべき医師偏在の問題点4つについて、考えられる影響を解説します。

地域や診療科によっては医療供給の不足が生じる

医師偏在によって医師数が不足している地域や診療科では、安定的な医療供給が難しくなります。医師が少ないと、医療の提供そのものが困難になるためです。結果として患者さまが求める医療の提供に時間がかかり、患者さまの健康が悪化したり、業務効率が低下したりする問題が考えられます。

医師の地域偏在と診療科偏在が同時に起きている場合は、該当の診療科に所属する医師が極端に少なくなって医療を提供できなくなる可能性があるでしょう。自院を利用する患者さまが減ることで収益が減少し、医療機関の経営に悪影響を及ぼことも懸念されます。

医師の業務負担が増加する

医師数が不足している医療機関・診療科では、業務の分散や交代をできる人員が少ないため、医師1人あたりにかかる業務負担が増加します。医師が業務に拘束される時間が多くなり、長時間労働が発生しやすくなることが問題点です。

長時間労働が発生するなど過酷な労働環境では、医師の体調不良や離職が発生しやすい点にも注意してください。もともと医師数が不足しているところに現役医師の休職や離職が発生すると、医師不足がさらに深刻化します。

また、若手医師は働きやすい職場を希望する傾向があるため、医師の業務負担が大きい職場は若手医師の確保が難しくなります。業務の引き継ぎができる人材が不足することで、将来的に医療機能の縮小が発生する可能性もあるでしょう。

地域医療連携体制の維持が難しくなる

医師の地域偏在が起こると、1つの医療機関だけではなく地域全体で医師不足が発生し、地域医療連携体制の維持が難しくなる問題があります。

厚生労働省が掲げる地域医療構想は、医療機関の機能分化・連携によって医療の質向上と効率的な提供を図る内容です。しかし、医師数不足が深刻化している状況では医療機関の統廃合や機能縮小が起こり、機能分化や連携をできなくなるケースが起こり得ます。 地域医療連携体制が維持できなくなると、地域で十分な医療が提供できなくなるため、患者さまは遠方の医療機関を利用しなければなりません。患者さまに多くの負担をかけることになり、緊急時の医療対応もできなくなるおそれがあります。

患者さまが利用できる医療の質に格差が生じる

医師の地域偏在や診療科偏在が起きていると、患者さまが利用できる医療の質に格差が生まれます。医療費は自己負担分を除いて公費から支払われているにもかかわらず、患者さまが暮らす地域や利用する診療科によって、医療に不公平が生じることが問題点です。

また、医師不足によって患者さまへの対応が遅れたり、医療ミスが発生したりといった問題も起こり得ます。患者さまへの対応や治療で不備が起こると、地域との信頼関係の構築が難しくなるおそれがあります。

医師偏在解消に向けた4つの対策

医師偏在解消に向けた4つの対策

医師偏在は安定的な医療提供を阻害する社会的な問題であり、政府・都道府県などの行政による対策がおこなわれています。

また、医師の確保や業務負担の軽減を図るなど医療機関側がとれる対策もあります。医師偏在に悩む医療機関関係者の方は、以下で紹介する4つの対策を参考に、医師偏在の解消に向けた取り組みを進めましょう。

地域偏在・診療科偏在の対策を目的とした地域枠制度

医師の地域偏在・診療科偏在を解消する対策には、都道府県と大学による「地域枠制度の整備・拡大」があります。

地域枠制度とは、卒業後に特定の地域・診療科に従事することを出願条件として、大学医学部に選抜枠を設ける制度のことです。地域枠で入学した学生は、奨学金支給などの優遇措置を受けられます。

地域枠制度は2008年から開始し、地域偏在・診療科偏在への対策として活用されてきました。厚生労働省によると、地域枠で卒業した医師は地域枠以外で卒業した医師よりも地域定着割合が高い傾向にあり、地域枠には一定の効果が期待できるといえます。

参考:厚生労働省ホームページ「医学部臨時定員と地域枠等の現状について

2019年には「医療法及び医師法の一部を改正する法律」の施行により、都道府県知事から大学に対して地域枠の設定・拡充を要請する権限が創設されました。地域枠制度のより積極的な活用が図られることで、地域偏在・診療科偏在の解消が進むと考えられます。

地域偏在・診療科偏在の対策になるシーリング制度

地域偏在・診療科偏在の解消に向けた行政側の対策には「シーリング制度」もあります。

シーリング制度とは、医師多数の都道府県が実施する専門研修プログラムを中心として、専攻医の採用数に上限を設定する制度のことです。2018年に開始したシーリング制度により、医師多数の都道府県で採用される専攻医数が一定程度減少するという効果が得られています。

また2023年には、医師不足が顕著な都道府県で1年以上の研修をおこなうことを条件に定員を加算できる「特別地域連携プログラム枠」も設けられました。

シーリング制度には「医師少数の都道府県の専攻医数増加につながっていない」という課題もあるものの、制度の整備によって医師偏在解消の効果が高まることが期待できます。

医師の待遇改善の実現

医療機関が主体となっておこなう対策としては、医師の待遇改善が挙げられます。医師偏在の原因である「地方勤務による生活への影響」や「診療科ごとの働き方・処遇の違い」などは、医師の待遇改善によって対処することが可能です。

具体的な取り組みとしては、医師年収の向上や福利厚生の充実が挙げられます。特に休暇・休日制度や子育て支援に注力すると、ワークライフバランスを重視する若手医師の求人応募を集められるでしょう。

また、医師が働きやすい環境作りをしていることを内外に発信することも重要です。たとえば採用オウンドメディアや求人サイトの採用ページに、待遇改善に向けた取り組みを記載する方法があります。

医療現場を支える医療ICTなどの技術導入

医療ICTなどの技術導入を進めることも、医師偏在の効果的な対策です。医療ICTは医療現場において活用される情報通信技術のことで、導入することで業務効率化や長時間労働の解消といった医療機関が抱える課題の解決を目指せます。

医療偏在に悩む医療機関の方は、医師の業務サポートや、医師数が少ない診療科の業務効率化を図れる医療ICTを導入するとよいでしょう。

医療ICTの一例が「遠隔画像診断」です。遠隔画像診断を導入すると、医療機関が撮影した医用画像をインターネット経由で院外の端末に送信できます。これにより、例えばオンコール医師にタブレットを貸与することで、スムーズに画像を共有できる環境を整備できます。

遠隔画像診断には、読影業務を外部の医療機関や企業に委託できる「遠隔画像診断サービス」もあります。読影業務にかかるリソースが足りない場合や、放射線診断専門医・各科の専門医に読影を任せたい場合は、遠隔画像診断サービスの利用を検討してみましょう。

まとめ

医師偏在についてのまとめ

医師偏在が起こる理由には「都市部勤務を希望する医師の多さ」や「診療科による働き方や処遇の違い」などがあり、これらに対して政府・都道府県などの行政による対策がおこなわれています。 医療機関でも実施できる対策としては、医師の待遇改善や医療ICTなどの技術導入が挙げられます。医師偏在に悩む医療機関の方は、自院に発生している問題点や課題を把握した上で、解決につながる対策を実践しましょう。

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