Column コラム
2025.05.05
日本の医療問題とは?現状と解決策について解説

日本では、国民皆保険制度により国民が優れた医療サービスを受けられる体制が整っています。しかし、少子高齢化の影響から医療の需要が高まる一方、医療を担う人材不足や医療費の高騰など、さまざまな問題が深刻化の一途をたどっています。
これらの医療問題が医療従事者や医療関係者に与える影響は決して軽視できるものではなく、今後の医療サービスの品質維持・向上のためにも積極的に解決していくことが求められています。
そこで本記事では、現在の日本における医療問題の現状や課題、解決策について詳しく解説していきます。
日本の医療の現状

日本は今、「2025年問題」に直面しています。
2025年は、団塊の世代と呼ばれる世代が後期高齢者になることで超高齢化が進み、日本の社会全体にさまざまなマイナスの影響を及ぼすと推測されています。これを2025年問題と呼んでいます。
日本人口の5人に1人が75歳以上の後期高齢者になることから、医療の需要はますます増加していくと考えられ、医療費や介護費・保険料負担の増加、労働人口の減少による医療資源のひっ迫などが懸念されています。
また、2040年には日本の全人口の35%が65歳以上の高齢者になると推測されていることから、2025年問題よりさらに深刻化した「2040年問題」への対応も求められています。
医療現場でこれから需要が増えていくと考えられるのが、在宅医療と高齢者の救急搬送の2つです。
厚生労働省によると、2025年における75歳以上の在宅医療患者数は1日あたり79,000人と推計され、2020年と比較すると10,000人以上の増加が見込まれます。また、75歳以上の高齢者の1か月あたりの救急搬送者数は280,000人と、同じく2020年から比べて42,000人増加すると推測されています。
在宅医療の患者数が増えることにより、急な病状悪化などによる救急搬送の件数も増加すると考えられます。そのため、医療資源のひっ迫が懸念される現在の日本において、どのように在宅医療や救急医療の体制を強化していくかも医療問題のひとつとして問われています。
日本が抱える医療問題

ここからは、現在の日本が抱えている医療問題について詳しく解説していきます。
超高齢化社会
日本の医療問題の多くは、超高齢化社会に起因しています。
多くの高齢者は慢性疾患を抱えているため、医療機関に受診する回数も増加の傾向がみられます。なかでも、糖尿病や糖尿病をはじめとした生活習慣病の罹患者数は特に多く、医療費の増加や医療機関のひっ迫を引き起こす要因となっています。 また、高齢者が必要とする医療サービスはさまざまであるため、一般の診療科だけではなく、より専門的なケアの提供も課題として挙げられます。
医療費・保険料負担の増加
高齢化社会である日本において、医療費の増加については長年議論されてきました。
高齢者は慢性疾患を発症することが多く、医療サービスの利用回数はさらに増加していくと考えられます。そのため、医療費の増加は今後もさらに続いていくと推測されています。
また、医療技術は日々進化しており、高価な最新の医療機器が導入されていることも医療費が増加している要因のひとつです。
厚生労働省による「令和4年度医療費の動向」では、2022年度の概算医療費は46兆円という結果がでており、2021年度より1.8兆円(4.0%)の増加したことが報告されています。
日本では、国民皆保険制度や後期高齢者医療制度などにより、被保険者の医療費がサポートされています。しかし、少子高齢化が加速しているなかで医療費の増加が解決できない場合、現在の自己負担割合の引き上げが検討されるようになるでしょう。
医療費・保険料負担の増加は現役世代への経済的負担を大きくし、いずれは医療制度を持続すること自体が困難になり可能性があります。
地域による医療格差
地域による医療格差も日本の医療問題のひとつとして挙げられます。
都市部には数多くの医療機関があり、多様な医療サービスを受けることができます。一方、地方には医療機関そのものが少ないため、都市部と同等の医療サービスを受けることは難しいのが現状です。
厚生労働省の発表した「医師偏在指数について」では、医師数がもっとも多いのは東京都、少ないのが青森県・岩手県・新潟県であることが示唆されています。
このような地域による医療格差を解消するために、地方の医療体制の強化や医療資源の配分が求められています。
医療従事者の慢性的な不足
現在の日本では、医師・看護師をはじめとした医療従事者が慢性的に不足しており、地方や過疎地では診療体制を維持していくことも難しい状況です。なかでも看護師の不足は深刻で、2025年までにおおよそ60,000人から最大で270,000人が不足すると推測されています。
参考:厚生労働省ホームページ「看護師等(看護職員)の確保を巡る状況」
少子高齢化が進む日本では、今後も医療への需要が高まるっていくことが必須であり、求められる医療サービスを提供するための安定した医療従事者の確保と定着が大きな課題です。
医師の働き方改革
高齢化による医療需要の高まりや医療ニーズの変化により、医師の業務負担も大きくなり続けています。医師の過重労働は自身の健康被害を招くだけではなく、医療の質の低下や医療ミスにつながる恐れがあるため、これまでも労働環境の必要性が問われてきました。
以上のような背景から、2024年4月に「医師の働き方改革」が施行されました。
この制度のもっとも大きなポイントは、時間外労働の上限が設けられたことです。しかし、医師によっては複数の医療機関で働くケースもあり、労働時間の管理には課題が残ります。
また、医療従事者間でのタスク/シフトシェアによる業務軽減も提言されていますが、医療従事者自体が不足していることから、医療機関によっては実行に移すのは難しいのが現状です。そのため、医師の働き方改革を進めるためには、医療従事者の育成・人材確保という課題を解決する必要があります。
医療現場のDX化(デジタル化)の遅れ
医療現場のDX化(デジタル化)は、電子カルテの導入やオンライン診療の普及が進みつつありますが、まだまだ遅れていると言わざるを得ません。なかでも、中小規模の医療機関は十分な予算を確保できず、機器導入やITを扱うスタッフの採用が難しいことがDX化を妨げていると考えられます。
2020年のデータでは、電子カルテを導入している病院は全体の57.2%ですが、200床未満の病院では48.8%という結果になっています。オーダリングシステムの導入についても同様で、400床以上の病院では93.1%が導入しているのに対して、200床未満では48.8%と大きく後れを取っています。
これらの結果から、医療現場のDX化のもっとも大きな課題は、中小規模の医療機関でのDX化促進にあるということができます。
日本における医療問題の解決策

前項では、日本が現在抱えている医療問題について詳しく紹介してきました。
ここからは、これらの医療問題を今後どのように解決していけばよいのか、その解決策について解説していきます。
超高齢化社会への対応
日本の医療問題のもっとも大きな課題である高齢化は、2040年にピークを迎えるといわれています。厚生労働省では、これからも続いていく超高齢化社会への対応策のひとつとして、2024年に「地域医療構想」の新たな方針を策定しています。
地域医療構想では、需要の高まりが推測されている在宅医療・高齢者の救急搬送の体制など、医療機関での診療・治療以外の医療システムの強化について言及しています。さらに、医療サービスと介護サービスの双方を必要とする高齢者が増加すると推測されることから、医療機関と介護施設のあいだでスムーズな連携をおこなうことが重要であるとしています。
今後は厚生労働省主導のもと、各医療機関の機能を整理したうえで地域における役割分担を明確にし、各都道府県がその地域に応じた具体的な構想を策定していく予定です。
医療費の適正化
国では、2008年4月から「医療費適正化計画」による医療費適正化の施策を展開しています。最新の計画として、現在は2024~2029年度までの第4期計画が発表されています。
第4期計画では、特定健診・保健指導の見直しやジェネリック(後発)医薬品使用の促進、電子処方箋の活用よる投薬の適正化などが新たな取り組みとして盛り込まれています。
参考:厚生労働省「第4期医療費適正化計画(2024~2029年度)に向けた見直し」
医療費増加の問題に対しては国による施策に頼らざるを得ませんが、医療機関においても計画の目的を理解したうえで積極的に取り組んでいくことが必要です。
地域医療・遠隔医療の強化
日本の医療問題のひとつに地域による医療格差がありますが、この問題は遠隔医療を強化することにより解決できると考えられます。
高齢者の多い過疎地では、医療機関への受診が難しいだけではなく、医師・看護師不足から訪問診療の効率も非常に悪いという状況にあります。こうした問題の解決策のひとつとしてオンライン診療の導入が挙げられます。
オンライン診療では、PCやスマートフォンがあれば通院することなく医師の診察・薬の処方を受けることができます。そのため、通院が困難な高齢者の通院の負担もなくなり、医師もより効率的に診療をおこなうことができます。
遠隔医療の強化により、地域格差の解消や医療サービス提供の効率化、患者の医療アクセス改善や医師をはじめとした医療従事者の負担軽減に期待ができるでしょう。
医療従事者の人材育成・確保
高齢化による医療需要の高まりに対応するためには、医療従事者の人材育成と確保も重要なポイントとなります。また、地域医療の格差を埋めるためにも、早急に解決しなければならない課題であるといえるでしょう。
現在、国による主導のもと、地方自治体や教育機関が医療従事者の人材不足への対応を進めています。特に人材不足が深刻である看護師については、「新規養成」「復職支援」「定着促進」を三本柱に据え、学生や社会人、現在は職を離れている元看護士の取り込みを強化しています。また、医師については、大学の医学部を中心とした臨床研修や専門研修の強化・キャリア形成プログラムの策定・地域枠の設定などにより人材確保を目指しています。
しかし、少子高齢化により国の労働力すべてが不足している状況下では、医療従事者を安定して確保し続けることは非常に難しいのが事実です。不足している労働力を補うためには、人材の育成・確保に努めながら、医療現場の業務効率化やDX化についても進めていくことが求められます。
医師の診察・業務効率化
医師の人材育成や確保を強化する一方で、診察や業務そのものを効率化して医師の負担を軽減することも必要です。
近年注目を集め、医療現場に導入されはじめているのが医療AIです。医療AIは、診断・治療の支援やゲノム医療、画像診断、医薬品の開発などの領域で実用化されています。これまで医師がおこなっていた業務の一部をAI処理することで、業務の効率化はもちろんのこと、医療の質の向上にも期待ができます。
また、外部の医療サービスを利用することもひとつの手段として挙げられます。
たとえば、画像診断においてはX線やCT・MRIなどの画像診断は、深刻な放射線診断専門医不足から、読影をおこなう医師者に大きな負担を強いています。しかし、遠隔読影サービスを利用することで医師の負担を軽減し、効率的な診療をおこなうことが可能となります。さらに、各科専門医の確保が難しい地方や過疎地の病院も、遠隔読影サービスを利用することで対象となる診療科の専門医の診断を受けることができるため、地域による医療格差解消にも寄与すると考えられます。
遠隔診断サービスについては以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
>>遠隔画像診断サービスとは?メリット・相場など解説
ICTの活用促進
現在の医療現場では、人材不足やDX化の遅れを医療従事者の業務量で補っているのが減少です。2024年からは「医師の働き方改革」が施行され、医師の時間外労働にも上限が設けられたことから、早急に業務効率化を図る必要に迫られています。
業務効率化を進めるためには、これまで以上にICTの活用を促進していくことが必要です。
電子カルテやオーダリングシステムをはじめ、医事会計システムや電子処方箋などの導入により、医療現場における多くの業務を効率化することが可能となるでしょう。また、情報の共有化が確実におこなえるようになるため、医療ミスの防止や、診療・業務の質の向上にもつながると考えられます。
まとめ

本記事では、日本が抱えている日本の医療問題の現状と解決策について解説してきました。
日本は現在「2025年問題」に直面しており、さまざまな医療問題を解決していくことが求められています。医療費・保険料の負担増加に対しては「医療費適正化計画」、超高齢化社会への対策としては「地域医療構想」が展開され、国の主導のもと、各自治体や医療機関が解決に向けて動き出しています。また、地域による医療格差の解消も急がれていますが、この問題はオンライン診療など、遠隔医療を強化していくことで解決が期待できます。
そして、少子高齢化の影響から解決が難しいとされているのが医療従事者の人材不足です。ほかの医療問題と同様に国の主導による対応が進められていますが、それだけでは人材を十分に確保することが難しいのが現状です。そのため、人材の育成・確保を進める一方で、医療従事者の業務効率化を図る必要があります。医療現場の業務効率化には、医療AIの導入やDX化推進が大きく寄与するでしょう。また、外部の医療サービスを利用することで、業務効率化だけではなく、医療の質の向上も実現すると考えられます。
イリモトメディカルでは、遠隔読影サービスにより医師の業務効率化をサポートいたします。30名以上の放射線専門医や各診療科の専門医が読影をおこなうことで、質の高い画像診断を提供しています。専門医の人材確保や業務効率化に取り組まれている医療機関・関連機関の方は、お気軽にご相談ください。