Column コラム
2025.03.28
医療業界の人手不足の原因とは?解決策についても解説

少子高齢化などの社会現象が進むなかで、年々深刻化していく医療業界の人手不足。今後も医療現場で必要な人員が足りない状況が予想されるなか、質を落とさずに医療サービスを提供し続けるにはどのような解決策が必要なのでしょうか。
この記事では、医療業界の人手不足の原因や問題、解決策について解説していきます。人手不足に悩んでいる医療機関の経営者や管理職の方はぜひ参考にしてみてください。
医療業界の人手不足の現状

日本全国では医療業界の人手不足が深刻化しています。厚生労働省が公表したデータから計算した有効求人倍率(求職者1人に対する求人の数)は、医療従事者で高い水準にあります。医師、歯科医、獣医、薬剤師などで3.22倍、保健師、助産師、看護師などで2.55倍です。
参考:ハローワーク情報サイト〜ハロワのいろは〜「職業別の有効求人倍率」
その一方で、全国で医師や看護師の国家資格取得者は年々増加しており、資格を持つ人材の数自体は不足していません。これらから、医療業界の人手不足の背景には離職率の高さなど、さまざまな問題が影響していると考えられます。
医療従事者の人手不足は現場の負担を増加させ、医療サービスの質や労働環境などのさまざまな面で支障をきたす可能性があります。医療現場の未来を守るためにも、人手不足が起こる原因を把握し、解決策を考えて講じることが重要です。
厚生労働省:「令和5年版 厚生労働白書」
医療業界の人手不足の原因

医療業界ここまでの人手不足が起きているのは何故なのでしょうか。原因として以下の5つが考えられています。
- 生産年齢人口の減少
- 医師や看護師の不足
- 地域による医療資源の偏り
- 離職率の上昇
- 医療技術の高度化
医療業界の人手不足を解決するためには、原因を把握しておくことが欠かせません。それぞれ詳しく見ていきましょう。
生産年齢人口の減少
医療業界の人手不足は、生産年齢人口の減少が大きく影響しています。日本の生産年齢人口(15〜64歳)は、少子高齢化の影響で1995年の8,716万人をピークに減少を続けています。総務省の推計では、2050年には5,275万人まで低下する見込みです。
参考:総務省ホームページ「第1部 特集 情報通信白書刊行から50年~ICTとデジタル経済の変遷~」
これにより、今後はさらに医療業界などの過酷な労働環境を伴う職種で人材確保が困難になることが予想されます。現状の体制のままだと、次第に需要と供給のアンバランスが生じ、質の高い医療サービスを提供することが難しくなってくるでしょう。
医師や看護師の不足
日本では、医師や看護師の人手不足問題も大きな問題となっています。医師は訴訟リスクの高さや長時間労働などが原因で、勤務先や特定の診療科に偏りが生じています。病院や地域への勤務、特定の診療科を避ける人が増え、結果として都心の勤務先や負担の少ない診療科に人員が偏る傾向が高まってしまうのです。
参考:文部科学省ホームページ「医師不足に対する病院勤務医の現状と提案、及びその理由について」
看護師も離職率が高い傾向にあり、特に新卒看護職員の離職率(2022年度の調査)は10.2%だと言われています。看護師が離職しやすい背景には過酷な労働条件や職員のライフスタイルの変化などがあり、復職率の低さも問題となっています。
参考:厚生労働省ホームページ「コメディカル不足に関して~看護師の人数と教育~」
地域による医療資源の偏り
医師は地方よりも都心へ就職する傾向にあることから、中山間地域や離島などの過疎地で人手不足が生じやすくなっています。これらの地域では、都心と比較して医療設備が十分に揃っておらず、提供できる医療サービスも限定的です。
そのため、医師にとって魅力的な就職先となりにくく、結果的に地域間での医療資源の偏りがさらに拡大する悪循環に陥っています。この問題は地域医療の質と安全性にも大きな影響を与えています。
離職率の上昇
医療従事者や受付スタッフなどの離職率が高いことも、医療業界の人手不足につながる深刻な問題です。厚生労働省の報告によると、医療・福祉業界の入職率が13.6%なのに対し、離職率は13.3%と非常に近い数値を示しています。この高い離職率の背景には、過酷な労働条件やストレス、ワークライフバランスなどの問題が影響していると考えられます。
参考:厚生労働省ホームページ「令和5年雇用動向調査結果の概要 2産業別の入職と離職」
医療技術の高度化
医療技術の急速な進歩に伴い、医療従事者に求められる専門知識や技術も高度化しています。年々、医療従事者には新たな医療機器の操作や先進的な治療法の習得が必要となり、継続的な学習とスキル向上が欠かせません。しかし、現状ではこれらの要求に応えられる人材の確保が難しく、人手不足の一因になっています。
医療業界の人手不足によって起こる問題

医療業界の人手不足により、以下の問題が生じる可能性が高まります。
- 医療従事者の労働環境の悪化
- 医療の質の低下
- 医療事故のリスク増加
- さらなる離職率の上昇
- 医療機関の収益の悪化
それぞれ解説していきます。
医療従事者の労働環境の悪化
医療業界の人手不足は、医療従事者の労働環境を悪化させます。人員が不足すると、一人ひとりの業務負担が増加し、長時間労働の常態化を招くことになるからです。
これにより、医療従事者の心身の健康を損なうリスクが高まります。過度な労働負荷は疲労の蓄積や集中力の低下につながり、医療サービスの質に影響を及ぼす可能性もあります。
医療の質の低下
医療業界の人手不足は、医療の質を低下させる可能性があります。医療従事者が十分な時間をかけて患者に向き合うことが難しくなり、適切な診断や治療がおこなわれにくくなるためです。
医療や対応の質が低下すると、患者満足度の低下や医療機関全体の評価にマイナスの影響を与える場合があります。これは医療従事者だけでなく、受付スタッフなど医療機関ではたらく全員のスタッフに共通することといえます。
医療事故のリスク増加
医療従事者の過度な業務負担が継続すると、医療事故のリスクが高まります。疲労や集中力低下により、投薬ミスや患者の取り間違えなどの重大な医療事故につながる可能性もあるでしょう。
医療事故は患者の健康被害を引き起こすだけでなく、医療機関の評価を著しく下げ、最悪の場合訴訟問題に発展するケースもあるため、避けるように努めなければなりません。
さらなる離職率の上昇
労働環境の悪化とスタッフのストレス増加は、離職率のさらなる上昇を招く悪循環を生み出します。実際に、日本医療労働組合連合会の調査では、看護師の離職理由として「人手不足で仕事がきつい」が最も高い割合を占めています。離職率が高まる悪循環は人手不足をさらに深刻化させ、残ったスタッフの負担がさらに増加する事態に陥るでしょう。
医療機関の収益の悪化
人手不足は、医療機関の収益にも悪循環を及ぼします。人員不足を補うために、一人当たりの人件費や残業代が増加し、収益を圧迫する可能性があります。
さらに、医療従事者の配置人数が施設基準を下回ると、診療報酬の減算につながり、医療機関全体の収益が大幅に減少する恐れもあるのです。この問題は医療の質や設備投資だけでなく、長期的な医療機関の存続にも関わる問題となってくるでしょう。
医療業界における人手不足の解決策

医療業界の人手不足を解決させる方法として、以下の5つが挙げられます。
- 給与体系を見直す
- 福利厚生を充実させる
- キャリアアップやスキルアップの支援をする
- 医療DXやAIシステムを導入する
- 外部委託サービスを利用する
医療業界の人手不足を解決するためには、各医療機関の原因や問題点に沿った解決策を選択することが重要です。詳しく見ていきましょう。
給与体系を見直す
医療業界の人手不足を解消するには、給与体制の見直しが重要な解決策の一つです。業務負担と給与のバランスが取れていないことは、離職率に大きな影響を与えます。土日祝日勤務の手当や残業代の水準向上など、スタッフが満足・納得できる給与形態を見直して構築してみましょう。
福利厚生を充実させる
ライフスタイルの変化に伴う離職率の上昇に対応するため、福祉厚生の充実も重要な解決策です。育児と仕事の両立支援や、有給休暇を取得しやすい環境整備が求められます。
院内保育所の完備や住宅補助精度の導入、リフレッシュ休暇制度の実施などが効果的です。これらの取り組みにより、スタッフの生活の質が向上し、長期的な就労意欲を高めることにつながる可能性があります。
キャリアアップやスキルアップの支援をする
医療技術の向上とスタッフのモチベーション維持のために、研修や教育精度を充実させることも大切です。院内での研修や勉強会の開催に加え、外部の勉強会や学会への参加費補助などを検討しましょう。
階層別や職種別のスキル研修、eラーニングによる知識のインプットなどのプログラムを導入するのも効果的です。これにより、スタッフの専門性向上や組織全体の医療サービスの質の向上が期待できます。
医療DXやAIシステムを導入する
業務効率化やコスト削減のために、医療DXや業務支援ツールの導入も有効な解決策です。電子カルテや在庫管理システムなど、業務内容に適したデジタル化を進めることで、業務の効率化が図れます。
これらのテクノロジー導入により、限られた人材でより質の高い医療サービスを提供することが可能です。
外部委託サービスを利用する
医療業界の人手不足を補完する方法として、外部委託サービスの活用も検討しましょう。
例えば、放射線診断専門医が足りていない場合は、遠隔読影サービスを検討してみましょう。遠隔読影サービスは、撮影したCTやMRIなどの画像をネットワーク経由で他の企業や病院に送信し、読影を依頼できるサービスです。
遠隔読影サービスを利用することで、放射線診断専門医が足りていない医療機関でも、高度な画像診断結果を得ることが可能になります。結果として院内の業務負担軽減や業務効率化につながり、医療業界の人手不足の解消に貢献できる可能性があります。
医療業界の人手不足でよくある質問

医療業界の人手不足について、よくある質問をまとめました。
医療業界で人手不足が起きている職種は何ですか?
医療業界では、医師や看護師だけでなく多くの職種で人手不足が顕著です。厚生労働省が公表したデータから算出した有効求人倍率は、診療放射線技師や臨床工学技士、理学療法士、作業療法士、視能訓練士、歯科衛生士などの「医業技術者」も3.38倍と高い数値を示しています。これらの職種は、専門的な知識や技術を必要とするため、人材の育成に時間がかかることも人手不足の一因と考えられます。
参考:ハローワーク情報サイト〜ハロワのいろは〜「職業別の有効求人倍率」
特に医師の人手不足が起きている診療科は何ですか?
一般社団法人日本病会のアンケート結果によると、「医師が不足している」「やや不足している」と答えた病院の診療科として、麻酔科、内科、救急科、整形外科、呼吸器外科などが挙げられています。
理由の一つとして、医療の高度化や患者の需要の高まりにより、内科では診療科の専門細分化が進んでいるからだと考えられます。また、ほかの診療科に関しては、緊急性の高い対応や高度な専門知識が求められることが多く、医師の負担が大きい傾向にあります。
参考:一般社団法人 日本病院会「2019年度 勤務医不足と医師の働き方に関するアンケート調査報告書」
特に医師の人手不足が起きている都道府県はどこですか?
都道府県別にみた人口10万人に対する医師の数は、埼玉県、茨城県、千葉県の順に少ないことがわかっています。これには、国公立大学の医学部の数なども関係しているようです。
参考:厚生労働省ホームページ「令和4(2022)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況 1医師」
まとめ

本記事では、医療業界の人手不足の原因や問題、解決策などについて解説しました。
現状として、日本では医師や看護師の資格取得者が年々増加しているものの、人員が十分に足りていない医療現場が増えつつあります。このような実情は、地域による医療資源の偏りや、離職率の上昇、医療技術の高度化などが原因で生じています。
医療業界の人手不足は、労働環境の悪化や医療の質の低下などにつながり兼ねません。また、離職率がさらに上昇する悪循環や、収益の悪化が生じる可能性もあります。
これらの問題を解決するためには、給与体系や福利厚生の改訂、キャリアやスキルの向上につながる支援の導入を検討するとよいでしょう。また、医療DXや外部委託サービスの利用も検討して、業務効率化を図るのも効果的です。
放射線診断専門医が不足していたり、業務負担が大きかったりする場合には、遠隔読影サービスの導入も検討してみてください。イリモトメディカルの遠隔読影では、30名以上の放射線診断専門医や各科の専門医が読影に対応いたします。また、薬事承認済みの高精度AIを併用しながらがん検診の見落としを徹底的に予防しています。
人手不足の解決策を検討されている方は、お気軽にご相談ください。