Column コラム

2025.03.13

医師不足はなぜ起こる?問題点や解決策について解説

病院や診療所が医療を提供するには医師の存在が不可欠ですが、現在の医療業界が抱える課題の1つに「医師不足」があります。医師不足は医療機関の経営や地域医療の維持に支障をきたす問題です。

医療機関に勤務する医師や経営者の中には、医師不足の課題に直面している方も多いのではないでしょうか。

この記事では、医師不足が起こる原因と問題点を説明した上で、医師不足の解消が期待できる5つの解決策を解説します。

日本国内で医師不足起きている理由

日本国内では医師不足が起きているものの、その現状にピンとこない方もいるでしょう。

実際のところ、日本国内の医師数は増加を続けています。厚生労働省によると、2012年~2022年における日本国内の医師数は下記の通りに推移していました。

2012年303,268人
2014年311,205人
2016年319,480人
2018年327,210人
2020年339,623人
2022年343,275人

参考:厚生労働省ホームページ「令和4(2022)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況

しかし、医師の需要に対して供給が追いついているとはいえません。日本は超高齢社会に突入しており、高齢者医療を中心に医師の需要が高まりつづけているためです。

厚生労働省によると、医師の労働時間を週60時間程度に制限する需要ケースでは2025年時点で医師の供給数より需要数が多く、医師不足という結果になっています。

参考:厚生労働省ホームページ「令和2年医師需給推計の結果

また、医師不足の現状には「医師の地域偏在」「医師の診療科偏在」という2つの問題が絡んでいます。

地域偏在が医師不足を招いている

地域偏在とは、地域によって医師数に格差があり、一部の地域で医師不足が起こるという問題です。

厚生労働省によると、全国における人口10万人あたりの医師数(人口10万対医師数)は2022年12月31日時点で262.1人となっていました。都道府県別に見ると人口10万対医師数が最も多いのは徳島県(335.7人)で、次いで高知県(335.2人)、京都府(334.3人)という順になっています。

対して人口10万対医師数が最も少ないのは埼玉県(180.2人)であり、次いで茨城県(202.0人)、千葉県(209.0人)が医師不足が顕著な都道府県です。

参考:厚生労働省ホームページ「令和4(2022)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況

全国的に医師数が増えていても、医師不足が起きている地域では医療需要を満たすことが困難になります。医師不足の地域では必要な医療を提供できず、地域医療を維持できなくなる可能性もあるでしょう。

診療科による偏在もある

医師の偏在は都道府県による違いだけではなく、診療科による違いでも起きています。

厚生労働省によると、医療施設に従事する医師数は2022年12月31日時点で327,444人でした。一方、診療科で見ると、特に下記の診療科において医師不足が起きていると考えられます。

  • アレルギー科(187人)
  • 感染症内科(615人)
  • 心療内科(863人)
  • 気管食道内科(103人)
  • 肛門外科(447人)
  • 小児外科(849人)
  • 産科(497人)
  • 臨床検査科(652人)
  • 集中治療科(919人)
  • 全科(253人)

参考:厚生労働省ホームページ「令和4(2022)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況

診療科偏在による医師不足が起こると、特定の診療科において医療の提供が難しくなります。診療科同士が相互に連携するケースも多いため、医療機関の運営に支障をきたす可能性もあるでしょう。

また、地域偏在と診療科偏在が同時に起こり得る点にも注意してください。地域全体で主要な診療科を設置する医療機関が減少している場合、地域医療に深刻な影響を及ぼすおそれがあります。

医師不足につながる4つの問題点

医師不足につながる4つの問題点

医師不足そのものや地域偏在・診療科偏在が発生している背景には、日本の医療におけるいくつかの問題点があります。医師不足の解決策を考えるには、医療の問題点を把握することが重要です。

以下では、医師不足や地域偏在・診療科偏在につながっている4つの問題点を解説します。

医学部の入学定員制限により医師の供給数が不足していた

そもそも日本国内で医師不足が起きている遠因には、医学部の入学定員制限が厳しくおこなわれていたことが挙げられます。

大学医学部の入学定員制限は、1982年に医師数の過剰を招かないようにする閣議決定がなされ、その後1997年にも医学部定員の削減に取り組むという閣議決定がありました。結果として医学部の定員数が年8,000人を割り込む期間がしばらく続き、医師の供給不足につながっています。

参考:文部科学省ホームページ「令和7年度 医学部入学定員増について

ただし、2008年の閣議決定において医学部定員の増員が決められており、2008年以降は医学部の入学定員について増員が行われています。近年の定員数は年9,000人以上となっており、将来的には医師の需給は均衡する見込みです。

参考:厚生労働省ホームページ「医師確保対策の概要及び今後の課題・スケジュール等について

地方よりも都市部で働く医師が多い

地域偏在が起きている原因としては、地方よりも都市部で働く、あるいは働くことを希望する医師が多いことが挙げられます。

まず、2004年に導入された新医師臨床研修制度により、研修医が出身大学以外の病院で臨床研修を行えるようになりました。新医師臨床研修制度には医師に必要な幅広い能力を身につけられる利点があるものの、地方の大学病院の研修医不足につながっています。

また、地方に比べると都市部は生活環境が整備されていて、規模の大きい医療機関が多い点も、地域偏在による医師不足を招く要因です。研修医や新人医師が都市部の病院を目指すことで、地方の医療機関では医師不足が起きています。

医療訴訟のリスク回避が医師不足につながっている

診療科偏在による医師不足の原因には「特定の診療科への人気集中」や「診療科の専門分化」など複数の要因が挙げられます。中でも若手医師の診療科偏在につながっていると考えられる要因が「一部診療科における医療訴訟のリスク」です。

重篤な患者を治療する集中治療科や、細心の注意が必要になる小児外科・産科といった診療科では医療訴訟のリスクが高い問題があります。医療訴訟が発生すると医師は重い責任を負うことになるため、医療訴訟のリスクが高い診療科を避ける方は少なくありません。

若手医師が入ってこない診療科では、少ない人員で業務をおこなうことになり、1人あたりの業務負担が増大します。結果として、診療科に残っている医師の退職に至る可能性が高くなるという負の連鎖が発生するでしょう。

医療訴訟のリスクを避けるために、手術をしない診療科を選んだり、最新設備が導入されている都市部の大病院で働いたりする医師もいます。医療訴訟のリスクは診療科偏在だけではなく、地域偏在にもつながる問題です。

長時間労働が常態化している

医師は「患者から診療を求められた場合に対応しなければならない」という応召義務があるほか、当直業務や診療外の業務もあるため激務の仕事です。医療機関では医師の長時間労働が常態化しており、社会問題にもなっています。

厚生労働省のデータによると、2022年における医師の週労働時間のうち、年換算で960時間~1,920時間働いている方の割合は17.5%、1,920時間以上働く方は3.7%となっていました。

参考:厚生労働省ホームページ「医師の勤務実態について

一般的な職業では時間外労働の上限は年360時間であり、医師は過重労働の傾向にあることが分かります。

2024年にスタートした医師の働き方改革では、医師の時間外労働は原則として年960時間が上限となりました。

しかし、長時間労働が常態化している医療現場では医師の時間外労働を削減することが難しく、上限内での長時間労働は依然として存在すると考えられます。

特に医師不足に陥っている地方の病院や、救急対応や手術がある一部の診療科では長時間労働が発生しやすい状況です。

医師不足の解消につながる5つの解決策

医師不足の解消につながる5つの解決策

医師不足は医療機関の経営や地域医療の維持に悪影響を及ぼします。地域偏在や診療科偏在は国による対策も行われているものの、医療機関側も医師不足の解消に向けて積極的に動くことが大切です。

医師不足に悩む医療機関関係者の方は、以下で紹介する5つの解決策を参考に、医師不足の解消を図りましょう。

解決策(1):魅力的な職場づくりを実施する

医療機関が医師不足を解消するには、人材確保と職場への定着を図る必要があります。雇用した医師が「長く働きたい」と思ってくれるよう、魅力的な職場づくりを実施することが解決策となるでしょう。

人材確保や離職防止を実現するには、長時間労働への対策を進めることが重要です。医師の労働時間・業務量を把握して、労働時間短縮計画を策定したり、ICT技術などの活用により業務効率化を図ることで、長時間労働を抑制しやすくなります。

また、医師が診療業務に集中できる環境を作れる「タスクシフト/シェア」の導入も医師不足の解決策となります。

タスクシフト/シェアとは、医師が従来行っていた業務の一部を他医療従事者に移管・共同化することです。たとえば「気管カニューレの交換」「インスリン投与量の調整」などの特定行為は、医師が手順書をあらかじめ作成することで、特定行為研修を修了した看護師に任せられます。

解決策(2):キャリア形成プログラムを活用する

地域偏在の解決策として、キャリア形成プログラムの活用があります。

キャリア形成プログラムとは、地域における医師確保と、能力開発・向上の機会確保の両立を目的として策定されるプログラムのことです。各都道府県の地域枠で卒業した方や、地域での従事要件がある地元出身者枠で卒業した方などを対象に、キャリアを積みやすいように地域の指定病院での研修制度や支援を用意します。

参考:厚生労働省ホームページ「キャリア形成プログラムについて

対象の医師にとって、キャリア形成プログラムは「大学在籍中にキャリア形成卒前支援プランを受けられる」「臨床研修修了後にすぐ専門研修に参加できる」点がメリットです。

地域にとっては「義務年限(原則9年間)中は都道府県内の医療機関に勤務してもらえる」「プログラム終了後も勤務継続の可能性がある」というメリットがあります。

若手医師が都道府県によるキャリア支援を受けつつ、医師が不足している地域の医療機関に勤務することで、地域の医師不足を解決しやすくなるでしょう。

解決策(3):シーリング制度をもとに専攻医を採用する

診療科偏在や地域偏在に対する行政の解決策としては、シーリング制度の導入が挙げられます。

シーリング制度とは、臨床研修修了後の専攻医を採用する際に、診療科や地域によって専攻医の採用定員数に上限(シーリング)を設けるという制度です。2018年にスタートした新専門医制度に合わせて、診療科偏在や地域偏在による医師不足への対策として導入されました。

シーリング制度で採用定員数に上限が設けられる診療科は、下記の13科目です。

  • 内科
  • 小児科
  • 泌尿器科
  • 脳神経外科
  • 整形外科
  • 形成外科
  • 耳鼻咽喉科
  • 放射線科
  • 皮膚科
  • 精神科
  • 麻酔科
  • 眼科
  • リハビリテーション科

対象となる診療科や都道府県は毎年変更されていて、2024年度の東京都では泌尿器科を除く12科目で採用定員数に上限が設定されました。

参考:厚生労働省ホームページ「令和6年度の専攻医採用と令和7年度の専攻医募集について

シーリング制度によって診療科偏在や地域偏在が緩和することが期待できて、人手不足の診療科で専攻医を採用できる可能性を高められます。

解決策(4):オンライン診療など医療へのICT導入を進める

オンライン診療など医療へのICT導入を進めることも、医師不足の解決策として有効です。

ICTとは「情報通信技術」を指し、医療現場においてはデジタル技術を活用して医療従事者同士や患者との情報共有を活発化させることを意味します。電子カルテによるデータ共有や、パソコン・スマートフォンを通じたオンライン診療が医療におけるICTの例です。

医療へのICT導入を進めることで業務効率化が実現でき、長時間労働の解消も期待できます。タスクシフト/シェアに必要な業務情報の共有や医療データの管理も簡単におこなえるでしょう。

特にオンライン診療を導入すれば、遠隔地にいる患者さまや在宅医療を利用したい患者さまにも医療機関内から医療を提供できます。地域偏在の解決につながり、在宅医療の需要も満たせる解決策です。

解決策(5):外部の医療サービスを利用する

医師不足に悩む医療機関は、外部の医療サービスを利用する方法も検討してみましょう。

外部の医療サービスとは、院外に医療業務を委託できるサービスのことです。医療事務のアウトソーシングサービスや、遠隔画像診断サービスなどが外部の医療サービスの例として挙げられます。

医療サービスの提供企業は業務に必要な人材・機材を揃えており、業務を委託する医療機関側は人的リソースを負担する必要がありません。たとえば遠隔画像診断サービスを利用した場合は、外部の放射線診断専門医に読影業務を委託でき、院内の業務負担が軽減します。

外部の医療サービスによる医師不足解消の効果は、どのようなサービスを利用するかで異なります。自院において医師不足で支障が出ている業務を分析したでうえで、解決策となるサービスを選択しましょう。

まとめ

医師不足に悩む医療機関の方は、外部の医療サービスの利用といった解決策を検討するとよいでしょう。

日本の医師不足は、医療現場における長時間労働の常態化や、医師の地域偏在・診療科偏在といったさまざまな問題点が絡んで発生しています。医師不足に悩む医療機関の方は、キャリア形成プログラムの活用や医療ICTの導入、外部の医療サービスの利用といった解決策を検討するとよいでしょう。

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