Column コラム
2025.02.19
医療AIとは?導入のメリット・デメリットや活用例について解説

AI技術の進歩・普及は著しく、医療分野においても「医療AI」の導入が進んでいます。医療機関の経営者や医師、情報システム担当のなかには、医療AIに大きな関心を持っている方もいるのではないでしょうか。
医療AIの導入を検討する際は、メリット・デメリットを理解し、期待する効果が得られるかどうかを調べることが重要です。
本記事では医療AIとは何かから、導入するメリットとデメリット、具体的な活用例までを徹底解説します。
医療AIとは

医療AIとは、医療分野において活用されるAI(人工知能)技術のことです。
そもそもAI技術とは、視覚・音声の理解や推論、意思決定といった人間の知的行動をコンピュータシステムに実行させることを指します。たとえば画像認識・自然言語処理・深層学習などがAI技術の例です。
医療AIは、さまざまなAI技術を医療分野に応用して、医療現場が抱える課題の解決につなげることを目的としています。厚生労働省が2017年におこなった「保健医療分野におけるAI活用推進懇談会」によると、下記の領域においてAIの実用化が進む、もしくは段階的に取り組むべきとされていました。
【AIの実用化が比較的早いとされる領域】
- ゲノム医療
- 画像診断支援
- 診断、治療支援
- 医薬品開発
【AIの実用化に向け、段階的に取り組むべきとされる領域】
- 介護、認知症
- 手術支援
参考:厚生労働省ホームページ「保健医療分野におけるAI活用推進懇談会」
また、2018年以降開催の「保健医療分野AI開発加速コンソーシアム」では上記の6領域に加え、予防(PHR)など新たな領域も含んだ「AI活用に向けた工程表」が作成されています。
参考:厚生労働省ホームページ「俯瞰図に基づくAI開発促進のための工程表」
医療AIは幅広い領域で業務効率化や医療の質の向上に寄与することが期待されており、ますます活用が進むと考えられる状況です。
医療AIが注目されている理由
医療AIが注目されている理由には、医療現場における下記のような課題の存在があります。
- 医療従事者の不足と業務負担の増加
日本の医療業界は人手不足が深刻化していて、医療現場で働く医療従事者には多くの業務負担がかかっています。高齢者人口の増加に伴って医療需要が増加し続けると、医療提供体制の維持が困難になる可能性があるでしょう。 - ヒューマンエラーの発生
各種医療は人命や健康にかかわる領域であるものの、医師・看護師などの医療従事者がヒューマンエラーを起こす可能性はゼロではありません。特に医療従事者の業務負担が大きく、過重労働になっている医療現場ではインシデントが発生する可能性が高くなります。 - 増大する医療の知見への対応
医療に関する研究は世界中でおこなわれていて、医療の知見や文献は年々増加しています。しかし、膨大なデータの中から必要な情報を探せなければ、積み重ねられた知見や文献を活用できません。医療研究を促進させるためには、効率的な情報抽出できる仕組み作りが必要です。
上記のような医療現場に見られる課題を解決するために、医療AIの導入と利活用が進められています。
医療AIを導入するメリット

医療AIを導入・活用すると、医療現場の業務効率化や業務負担の軽減、ヒューマンエラーの発生抑制といった効果が期待できます。医療機関の方は自院が抱える課題を医療AIが解決できるかを確認したうえで、導入を検討するとよいでしょう。
以下では、医療AIを導入する5つのメリットを解説します。
業務効率化が実現する
医療AIを導入することで、医療従事者がおこなう業務の一部をAIが処理できるようになり、業務にかかる手間と時間を削減可能です。医療現場の業務効率化が実現して、人手不足の解消を図れます。
たとえば定型的なデータを入力する事務作業をAIにおこなわせれば、医師・看護師はより重要性が高い診療業務や看護業務に集中できます。画像処理ができる医療AIはCT・MRIなどの医用画像の解析において、読影医の画像診断業務をサポートしてくれるでしょう。
業務効率化が実現すると診療の待ち時間も短縮できるため、医療機関を利用する患者さまにとってもメリットがあります。
医療従事者の業務負担が軽減できる
医療AIによって医療現場の業務効率化が実現すれば、医療従事者の業務負担も軽減できます。
医師や看護師の業務の中でも、特に業務負担が大きいといわれているのが診断書・カルテ・レセプト作成などの事務作業です。AIはデータ入力や計算といったルーティンワークを得意としており、導入することで事務作業の一部工程を自動化できます。
また、業務負担が大きい職場環境は医療従事者の休職・離職を招きやすいといえます。医療AIで業務負担を軽減することで医療従事者が働きやすい職場環境を作れるため、人材定着も図れるでしょう。
ヒューマンエラーの発生を抑制できる
医療AIは常時稼働をしていても正常な動作を続けることができます。人間のように疲労やモチベーションによる成果のムラが発生せず、ヒューマンエラーの発生を抑制できる点がメリットです。
医療現場のヒューマンエラーはインシデントと呼ばれ、何らかの人身事故が起きた場合は医療事故、医療従事者の過失で患者さまに被害が出た場合は医療過誤に区分されます。医療事故・医療過誤の発生は患者さまからの信頼を失い、医療機関や医療従事者の責任問題にも発展するため、可能な限り避けなければなりません。
医療AIを導入すればAIによる情報提供を得られ、AIと人間によるダブルチェック体制も構築できます。ヒューマンエラーの発生を抑制して、医療の質を高めることが可能です。
診断業務のサポートにより診断精度が向上する
深層学習ができる医療AIはデータの整理・分析を得意としていて、患者さまの検査データや診療データなどをもとに診断業務をサポートします。医師が見落としかねないわずかな異常も検出できて、導入前よりも診断精度の向上が期待できるでしょう。
特にがん・心疾患・脳血管疾患などの死亡率が高い病気は早期発見が重要であり、診断の正確性が求められます。医療AIは異常を検出しやすく、病気の早期発見から治療へとつなげやすい点がメリットです。
診断精度の向上により、病気を早期発見・治療できた患者さまやご家族の方からの信頼も得られます。診断は医師自身がおこなう必要があるものの、診断業務に必要な異常の発見を医療AIがサポートしてくれることで、業務負担を減らしながら医療の質を高められます。
医療の地域格差の是正につながる
医療機関や医師の数は都市部と地方で大きな格差があり、地方に居住する方は質の高い医療を受けられない問題があります。医療AIのいくつかの技術を活用すると、医療の地域格差の是正につなげることが可能です。
たとえば、地方の医師が医療AIを活用しながら患者さまを診断すれば、専門医と同等の診断・治療を提供できます。事務作業の業務負担も軽減できるため、少人数の医療機関でも効率的な診療をおこなえるでしょう。
医療AIは、誰もが質の高い医療を受けられる社会を実現する方法の1つと言えます。
医療AIの導入で気を付けたいデメリット

医療AIの導入には多くのメリットがある一方で、医療機関が気を付けたいデメリットもいくつか存在します。医療AIの導入を決める前に、具体的なデメリットの内容と影響を知っておくことが重要です。
以下では、医療AIの導入で医療機関が気を付けたい4つのデメリットを紹介します。
医療AIの導入や維持にコストがかかる
医療AIは開発や現場に合わせたカスタマイズが必要であり、一般的に高額な導入費用がかかります。導入後も保守作業やバージョンアップをおこなわなければならず、維持コストがかかる点もデメリットです。
特に規模が小さい診療所や、人手不足による経営難に悩んでいる病院では、医療AIの導入・維持にかかるコストが経営負担となる可能性があります。医療AIを導入する際は、自院がAIを導入したい業務を明確にし、適切なコストで導入・運用できる製品を選ぶ必要があるでしょう。
患者のプライバシー保護に注意する必要がある
AIは基本的に大量のデータをもとに学習を進める仕組みであり、医療AIの場合はクラウドに保管されている診療データや症例データなどを学習させることになります。
しかし、医療機関で扱うデータには個人情報が多く含まれているため、患者さまのプライバシー保護に注意が必要です。データへのアクセスに権限を設定したり、外部への流出を防げる体制を構築したりといったセキュリティ対策を徹底しなければなりません。
医療AIを活用できる体制の構築が必要になる
医療AIを導入・活用するには、医療機関内にインターネットを活用して業務を進める医療ICTの基盤が必要です。
たとえば代表的な医療ICTである電子カルテを導入していない医療機関では、医療AIの活用に必要な診療データの蓄積ができません。医療AIの導入前に、自院の医療ICTが十分に整備されているかを確認しましょう。
また、医療AIを使用する医療従事者のAIリテラシー(AIに関する知識や活用できる能力)も高める必要があります。AIリテラシーを向上する方法には、AI関連の研修プログラムの導入や、医療AIを活用した業務トレーニングの実施が挙げられます。
医療AIに任せきりにせず、人の判断も必要になる
医療AIには高度な科学技術が用いられているものの、故障や不具合が起きた場合は信頼性の低い成果が出力される可能性もあります。医療行為は患者さまの命や健康に関わるため、医療AIに任せきりにせず、人である医療従事者の判断が必要となります。
また、多くのAIには「入力内容からどのように成果を出力したか」が分からないブラックボックス性があることも問題です。医療AIの信頼性を担保するためには、専門医などの医療従事者と組み合わせて運用し、最終判断は専門医がおこなうという体制を取るとよいでしょう。
医療AIの活用例

医療AIは医療領域でさまざまな使い方がされていて、どのような医療AIを導入するかで期待できる効果が異なります。医療AIで解決したい課題がある医療機関の方は、具体的な活用例を知っておくことがおすすめです。
最後に、医療AIの活用例を4つ挙げて、それぞれの使い方で期待できる効果も解説します。
医療AIを活用したAI画像診断
CT・MRIなどで撮影した医用画像を調べる画像診断の領域において、医療AIの導入が進んでいます。
医療AIは画像認識技術で画像を判別・処理し、機械学習によって分析できるため、画像診断と相性がよいことが特徴です。海外の報告事例では、2016年に実施されたコンテストで乳がんの転移の画像診断をAIと11人の病理医がおこない、判別能でAIが病理医の平均を上回ったという結果があります。
参考:厚生労働省ホームページ「保健医療分野におけるAI開発の方向性について」
画像診断の領域に医療AIを導入することで、医療機関内で画像診断を担当する読影医(放射線診断専門医)の業務負担を軽減できます。診断の見落としも発生しにくくなり、医療の質を高められるでしょう。
診療器具や手術用機器への医療AIの搭載
医療AIはコンピュータ上のソフトウェアだけでなく、診療器具や手術用機器といったハードウェアに搭載する使い方もされています。
例を挙げると、診察時に使用する聴診器にAIが搭載された製品が開発されています。患者さまの心音や心電情報の診断をAIが支援する仕組みで、医師の経験・技量や環境に診断結果が左右されにくくなるというものです。
また、手術支援ロボットなどの操作時に視覚情報を支援する技術も開発されています。重要な組織を強調することで、手術の安全性向上や担当医の負担軽減につながる効果が期待できます。
医療AIによるオンライン診断
患者さまを遠隔地から診断するオンライン診断においても、医療AIの活用は進んでいます。オンライン診断を実施するには医療ICTの整備が不可欠であり、医療AIの導入もおこないやすい環境です。
たとえば、患者さまが自身の症状をAIに相談し、可能性のある病気や受診の必要性などを調べられるサービスがあります。また、皮膚の写真を撮影して、気になる皮膚の状態などを検索できるサービスも登場しています。
医療AIによるオンライン診断が普及することで、医療機関を受診しようか悩む患者さまの助けとなるでしょう。
新しい治療法や医薬品開発における医療AIでのデータ管理
新しい治療法や医薬品を開発するには多くの時間がかかり、臨床試験に関わる膨大なデータの管理も必要です。医療AIを活用することで臨床試験のデータを効率的に収集・分析でき、開発期間の短縮につながる効果が期待できます。
たとえば日本では、AI技術を活用した「創薬ターゲット探索プラットフォームの構築」が官民協力の体制で実施されました。オミックスデータ・症例のデータベース構築や、蓄積データを活用した解析により、有力な創薬ターゲットの発見という成果を得られています。
参考:内閣府ホームページ「創薬ターゲット探索プラットフォームの構築」
まとめ

医療AIは医療分野で活用されるAI技術のことで、多くの医療分野で導入が進んでいます。業務効率化や医療従事者の負担軽減、ヒューマンエラーの発生抑制など、導入によって医療機関が抱える課題の解決が期待できます。
画像診断業務に課題を抱えているものの、医療AIの導入コストや体制構築も負担になる場合は、画像診断を外部委託できる「遠隔画像診断サービス」を検討するとよいでしょう。イリモトメディカルでは、AIを使用したダブルチェック体制による、精度の高い遠隔画像診断サービスを提供しております。
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