Column コラム
2024.10.31
遠隔画像診断サービスとは?メリット・相場など解説

遠隔画像診断サービスは、IT技術の進歩によって実現した新しい画像診断システムです。専門医不足に対応し、診断の精度を向上させることも期待されます。導入を検討している場合には、コストやメリット、注意点などについても把握した上で判断することが重要です。そこでこの記事では、遠隔画像診断サービスの特徴やメリット、費用相場などを解説します。
遠隔画像診断とは

遠隔画像診断サービスとは、医療機関で撮影した検査画像を、インターネットを通じて外部の施設に送信し、離れた場所にいる医師へ診断を依頼できるシステムです。「日本医学放射線学会」では、遠隔画像診断を「CT, MRI等の医用画像およびその関連情報を、ネットワークを利用して画像検査を施行した医療施設の外で複数施設の医師(主治医と専門医、専門医同士)が相互伝達することで行われる診断」と定義しています。
遠隔画像診断サービスでは、MRIやCTなどで患者の検査画像を撮影し、その画像を契約している医療機関や事業者に送信します。先方の施設では、専門医が検査画像を確認し、読影結果や異常所見の有無などをレポートにして返却します。検査画像を送信した医師はレポートの内容を確認し、診断に役立てることが可能です。
出典:日本医学放射線学会「遠隔画像診断に関するガイドライン 2018」
遠隔画像診断サービスのメリット

遠隔画像診断サービスにはさまざまなメリットがあります。ここでは、遠隔画像診断サービスのメリットを5つ解説します。
診断の質が向上する
遠隔画像診断サービスを導入すると、診断の質が向上することが見込めます。
CTやMRIの画像診断は、万が一見落としなどのミスが起きてしまうと、その後診断や治療方針の決定に大きく影響します。読影が困難な事例などでは、経験を積んだ放射線診断専門医の意見が必要となるケースもあるでしょう。
遠隔画像診断サービスでは、医療機関に専門医が在籍していない場合でも、画像を提供することで専門医の意見を聞くことができます。正確性を担保できるだけでなく、読影が困難な事例などにも対応でき、診断の質を高めることが期待できます。
専門医不足に対応できる
専門医不足に対応できることも大きなメリットといえます。
現在、放射線診断専門医は国内に5600人ほどしかおらず、深刻な人手不足であるといえます。
各医療機関でも、放射線診断専門医が確保しにくいことで診断に影響が及んでいるというケースもあるでしょう。
しかし、遠隔画像診断では、画像を撮影した医療機関に専門医が在籍していない場合でも、外部の機関に在籍する専門医に意見を聞くことができます。そのため、専門医の確保が難しい場合でも、サービスを利用して診断に役立てることが可能です。
出典:日本放射線診断専門医会・医会「放射線診断専門医にお任せください」
検査機器の稼働率向上が期待できる
検査機器の稼働率向上が期待できることもメリットの一つです。
専門医が不在の場合には、検査機器の稼働率が低く、高額なコストに見合わない状況になりかねません。
しかし、遠隔画像診断を利用することで専門医と情報共有することができるため、検査機器の稼働率を高め、コストを回収できることも期待できます。
診療時間の短縮につながる
診療時間短縮につながることも期待できます。
遠隔画像診断を利用すると、異常所見やフォローアップの必要性、緊急性の有無など全てが要約されたレポートが返信されます。診断する医師はその要約文を確認すれば良く、再度画像を確認するなどの手間を省くことができます。そのため、診療時間を短縮できるケースもあるでしょう。
遠隔画像診断サービス導入に向いている病院の特徴

遠隔画像診断は、専門医不足やコストで悩む多くの医療機関におすすめのサービスです。ここでは、遠隔画像診断サービス導入に向いている病院の特徴を3つ紹介します。
医師の多様な働き方をサポートしたい病院
医師の多様な働き方をサポートしたいという病院には、遠隔画像診断サービスの導入が向いています。
近年、医師の働き方も多様化しており、フリーランスとして働く医師や、男性で産休を取得する医師もいます。医療機関では、多様な働き方に寄り添いたいという気持ちがある一方、人手が足りていない現状に悩んでいるところもあるかもしれません。
しかし、遠隔画像診断サービスを導入することで多様な働き方に伴う人手不足にも対応できるケースがあります。遠隔画像診断サービスを導入して医師のライフワークバランスを尊重すれば、医師のモチベーションアップや診療の円滑化だけでなく、働き手の増加につながる可能性もあるでしょう。
放射線診断専門医が不足している病院
放射線診断専門医が不足している病院にも、遠隔画像診断サービスが向いています。
放射線診断専門医が不足している場合には、外部に協力を依頼することで、診療を円滑に進めることができます。さらに、患者の待ち時間軽減にも役立ち、信頼性を得ることにもつながります。
放射線診断専門医がいなくても、遠隔画像診断サービスを利用することで、診断の質を確保しつつ診療体制を強化することが期待できるでしょう。
検査機器の稼働率が低い病院
検査機器の稼働率が低い病院にも、遠隔画像診断サービスが向いています。
CTやMRIなどの検査機器を導入している単科のクリニック等では、検査を受ける患者数が限られ、検査機器の稼働率を上げるために近隣の医療機関から患者を受け入れているケースもあるでしょう。そのような場合にも、遠隔画像診断サービスを利用することでさまざまな診療科の画像診断レポートを返却することができます。そのため、近隣病院から検査依頼が増加し、検査機器の稼働率を上げることも期待できます。
遠隔画像診断サービスの相場

遠隔画像診断サービスには、さまざまな料金が含まれます。ここでは、遠隔画像診断サービスの料金相場を解説します。
初期費用
遠隔画像診断サービスを導入するには、初期費用が発生します。初期費用の相場は50,000円〜100,000円程度で、必要となる機器の購入費用、ネットワークの設定費用、システム導入費用などが含まれます。
月額基本料金
遠隔画像診断サービスを導入する上では、月々の基本料金も発生します。基本料金の相場は10,000円〜50,000円ほどで、運用費用、システム保守、データ管理費などが含まれます。
読影料金
遠隔画像診断サービスでは、画像診断1件に対する読影費用もかかります。読影費用は料金が一律で設定されている場合と検査機器の種類ごとに設定されている場合があり、相場はX線で500円〜、PET・CT・MRIで2,000円〜3,000円程度です。なお、1ヶ月あたりの読影件数によって割引サービスを設けているところもあります。
スライス加算
遠隔画像診断サービスでは、一定数以上の読影で加算される「スライス加算」がかかるケースもあります。あらかじめ基本料金で読影できる枚数が決まっており、それを超えた場合に加算されます。
部位加算
特定の部位を読影する際に加算される料金です。同時に複数の部位を読影する場合に加算されます。料金は一つの部位ごとに1,000円〜3,000円程度が相場とされています。
時間外料金
指定の時間外や緊急で読影を依頼する場合に発生する料金です。時間外料金の相場は500円前後で、1件あたりに対して発生するほか、1枚ごとに発生するケースもあります。
遠隔画像診断サービスの注意点

遠隔画像診断サービスを導入する上では、注意点についても理解し、メリット・デメリットを踏まえて検討することが重要です。ここでは、遠隔画像診断サービスの注意点について解説します。
システムの整備には費用や時間がかかる
遠隔画像診断サービスでは、システムの整備に費用と時間がかかることに注意が必要です。
サービスを導入する上では、上記で紹介した初期費用や基本料金などの費用がかかります。また、導入初期には、通信環境やシステムの設備を行ったり、情報漏洩のリスクを軽減させるため、暗号化通信等の機能を整備したりする必要があります。
そのため、サービスを日常的に使えるようになるまではある程度の時間がかかることを理解しておきましょう。
遠隔画像診断が可能な事業者を探す必要がある
サービスを導入する上では、遠隔画像診断が可能な事業者を探す必要があります。サービスを導入するためには、以下の条件を満たす必要があります。
(1)システム
- 検査画像の送受信に暗号化通信(VPNなど)が必要
- 情報漏洩軽減のため画像診断端末内にデータを残さない機能を実装する
(2)ネットワーク管理
- 継続的に特定の医療機関に接続する場合には、IPSee +IKEやIP-VPNで接続する
- データの改ざんや盗聴、通信経路への侵入などを避け、確実に送受信する
(3)ハードウエア管理
- 表示内容や診断内容によって適切なモニタ解像度、表示階調特性を選ぶ(DICOM Part14にキャリブレーションすることが望ましい)
- 液晶モニタを適切に整備し、推奨される機能に準拠する
(4)画像情報の管理体制
- 画像情報は情報システムに精通した者が管理し、データ改ざんや情報漏洩を避けるための対策を講じる
- 携帯端末による情報の持ち出し等に対して制約を設ける、パスワード設定をするなどしてリスクを最小限に抑える
(5)医師の教育・資格
- 診断にあたる医師には専門教育に加えネットワーク運用などに関わる教育をおこなう
- 放射線診断専門医またはそれと同様以上の能力を持つ医師が従事する
(6)安全性の確保
- 厚生労働省ガイドライン、個人情報保護法第20項などを確認するほか、安全性確保に求められるレベルにおいて定期的に把握し改善を図る
出典:日本医学放射線学会「遠隔画像診断に関するガイドライン 2018」
サービスを導入する上では、このようにさまざまな条件を満たした事業者を探す必要があります。いずれの施設でも、サービスを導入するためにはリスクを最小限に抑えて安全性を確保するための対策を講じる必要があることを理解しておきましょう。
まとめ

遠隔画像診断サービスは、専門医不足や検査機器の低稼働率などを解消できる画期的なサービスです。特に放射線診断専門医は人手不足が深刻であり、検査機器が充実していても、検査を受けられずコストが回収できないといったケースもあるでしょう。
遠隔画像診断サービスを導入することで検査機器の稼働率を向上させ、診断の質向上や診療時間の短縮など、さまざまなメリットが期待できます。
しかし、サービスを導入する上では、費用や時間がかかるほか、さまざまな施設基準をクリアする必要があります。メリット・デメリットを踏まえ、入念に検討しましょう。