Column コラム
2024.12.05
地域医療の課題とは?問題点と具体的な解決策を解説
2014年成立の「医療介護総合確保推進法」により地域医療構想が制度化され、医療機関は地域医療の中で役割を担うことが求められるようになっています。地域医療への取り組みを進めながらも、現状に課題を感じている医療機関の方も多いのではないでしょうか。そこでこの記事では、地域医療とは何か、なぜ重視されているかを解説したうえで、地域医療の課題と具体的な解決策をご紹介します。
地域医療とは何か
地域医療とは、地域に暮らす住民の健康維持・健康増進を目的として構築される、地域全体の医療体制のことです。地域医療の枠組みにおいて、医療機関は組織の垣根を超えて他医療機関や関係組織と連携し、患者様にとって最適な医療を提供します。
地域医療は地域包括ケアシステムに根差した考え方です。地域包括ケアシステムでは医療機関が地域の中で役割を担うことを想定しており、患者様は住み慣れた地域において、自身の健康状態に合う医療を利用できます。
地域医療を実現するための具体的な施策が、全国を341の構想区域に分けて、病床機能の区分ごとに必要病床数を推計する「地域医療構想」です。各都道府県が地域医療構想を定めており、構想区域内における医療需要と、高度急性期・急性期・回復期・慢性期の各機能を持つ病床の必要数を推計しています。
地域医療構想では、地域の医療機関に対して4つの病床機能に応じた機能分化を推進し、かつ地域内の医療機関が連携することを求めています。医療機関は自院が担う医療機能を自主的に選択し、医療機能の現状および今後の方向性をまとめて、病床機能報告として管轄の都道府県に報告しなければなりません。
地域医療が重視されている背景
地域医療が重視されている背景には、日本全体で急速に進んでいる少子高齢化があります。少子高齢化による課題の中でも、特に対応・対策が急務とされているのが「2025年問題」です。
2025年問題とは、2025年以降に日本の人口の年齢別比率が大きく変化することで発生が予測されている、さまざまな問題・課題のことです。2025年は第一次ベビーブーム(1947年~1949年)生まれの、いわゆる団塊の世代が75歳を迎えて後期高齢者になる年であり、日本人の約5人に1人が75歳以上になるとされています。
2025年問題で懸念されている医療業界における課題は、主に以下の3点です。
- 働き手の不足
2025年以降は15~65歳の生産年齢人口が減少し、さまざまな業界・業種において働き手の不足が課題となります。働き手が不足する状況は医療業界においても例外ではなく、医療機関の経営継続が困難になると考えられます。 - 医療需要の変化
現役世代の減少と高齢者の増加により、地域の医療需要が変化すると予測されています。高齢者人口が大きく増えた地域において高度急性期・急性期よりも回復期・慢性期の医療需要が増加する、といったケースが一例です。地域の医療需要に対応できない医療機関は、患者数の減少や収入減少といった課題に悩む可能性があるでしょう。 - 社会保障費の増大
高齢者は医療費の自己負担率が低く、高齢者人口の増加は社会保障費の増大につながります。生産年齢人口によって税収の減少も見込まれており、診療報酬を削減させる方向での改定が予測されている状況です。
診療報酬の減少は、公的医療サービスを提供する医療機関の収入減少に直結する課題です。医療機関が質の高い医療を提供できなくなり、運営コストを賄えなくなって倒産・解散に至る可能性もあります。
効率的な医療提供体制の整備を目指す地域医療構想は、2025年問題によって生じる医療業界の課題を解決する1つの方法です。
地域医療の現状と課題
2024年12月現在、各都道府県は地域医療構想の策定を完了し、将来の必要病床数を踏まえた地域医療構想調整会議を毎年おこなっています。地域医療介護総合確保基金などの助成制度も作られており、地域医療の実現に向けた活動は着実に進んでいる状況です。
しかし、都道府県単位での地域医療構想は推し進められているものの、地域医療を担う医療機関側にはいくつかの課題があります。地域医療への取り組みを進める医療機関は、自院が抱える課題を把握しておきましょう。
以下では、医療機関が地域医療への取り組みで抱えやすい3つの課題を説明します。
地域医療を支える医師・看護師の人手不足
高齢者人口の増加によって医療ニーズは高まっており、地方を中心に医師や看護師といった医療従事者の人手不足は深刻化していることが1つ目の課題です。
実態としては、医師・看護師ともに就業者数は増加しています。厚生労働省によると、2020年における医師数は約33.9万人、看護師数は約173.4万人であり、近年は右肩上がりに就業者数の増加が見られている状況です。
参考
厚生労働省ホームページ「令和2(2020)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」
厚生労働省ホームページ「看護師等(看護職員)の確保を巡る状況」
しかし、医療従事者の人数が増えることが、そのまま地域医療における医療従事者のニーズを満たすとは限りません。多くの医師・看護師は条件が良い都市部の医療機関に勤めていて、医療従事者の地域偏在が大きな課題として存在しているためです。
患者数が多い地域で運営する医療機関は十分な人数の医療従事者が必要となるものの、そもそも該当の地域で勤務してくれる医療従事者の確保が困難になるケースが考えられます。人手不足の医療機関は適切な医療提供ができず、地域医療において求められる役割を果たせなくなるでしょう。
また、2024年4月1日からは医療機関においても働き方改革が本格的にスタートするようになり、医師も時間外労働の上限が原則月45時間・年360時間となりました。今まで医師の長時間労働に支えられていた医療機関では、医療提供体制を維持するための人材補充が課題となります。
経営難で閉鎖する医療機関の増加
近年、医療機関の休廃業・解散が増加しており、特にコロナ禍以降は休廃業・解散件数が多い状態が続いています。
株式会社帝国データバンクの調査によると、2023年における医療機関の休廃業・解散件数は709件でした。中でも診療所の休廃業・解散件数が580件と大部分を占めていて、医療機関全体と診療所の休廃業・解散件数はどちらも過去最多となっています。
参考:帝国データバンク「医療機関の 「休廃業・解散」 動向調査 (2023 年度)」
医療機関が休廃業・解散をする主な原因は、「支出増加や収入減少による経営難」や「後継者がいないことによる廃業」です。特に経営難は医療業界の大きな課題となっていて、人件費や設備投資の負担増加、病床稼働率の低下が要因として挙げられます。2023年においては、コロナ補助金の廃止による収益の減少も経営悪化の一因です。
地域医療を構築・維持するには、地域の医療機関の存在が欠かせません。1つの医療機関が閉鎖すると他の医療機関への負担が増加し、さらなる休廃業・解散につながるという悪循環を生む可能性もあるでしょう。
経営難で閉鎖する医療機関の増加は、地域医療構想の実現を難しくする課題となっています。
医療機関間の連携の難しさ
地域医療構想では、医療機関が自主的に機能分化・連携に取り組むことを求めています。
しかし、それぞれの医療機関はもともと異なる組織であり、医療機関によって診療方針や入退院基準にも違いがあるため、緊密な連携ができるとは限りません。
たとえば急性期病院から回復期病院への転院をする際、病状の認識の違いで転院がスムーズに進まないケースがあります。連携先との間で導入設備・システムに大きな差がある場合は、「情報の引継ぎがうまくできない」「セキュリティ面に不安がある」といった課題も生まれるでしょう。
また、医療機関間で患者様の診療情報などを共有する場合は、原則として患者様の同意を取得しなければなりません。同意の取得や連携先への伝達などが業務負担となることも、医療機関間の連携が難しくなる課題といえます。
機能分化についても、現状の病床機能報告は医療機関が病床機能を自主的に報告する仕組みであるため、実態との乖離が問題となっています。具体的には高度急性期・急性期で報告する医療機関が多く、回復期で報告する医療機関が少なくなっており、機能分化の進展が難しい状況です。
地域医療が抱える課題の解決策
地域医療が抱える3つの課題の中には、医療機関の自主的な取り組みによって解決が期待できるものがあります。医療機関の経営継続と地域医療構想の中での役割を果たすために、医療機関経営者の方は課題の解決策を知っておきましょう。
最後に、地域医療の課題を解決するために医療機関が実施できる3つの方法を解説します。
医療従事者の確保と外部医療資源の活用
医師・看護師の人手不足を解消するために、医療従事者の確保を図りましょう。求人募集をおこなうことはもちろん、雇用する医療従事者が働きやすい環境の整備や、離職防止のためにキャリア支援プログラムの策定も必要です。
また、都道府県や自治体が用意する医師派遣などの制度を利用する方法もあります。医師派遣を利用するには医療機関同士の連携が必要であるものの、医療従事者の確保や若手の育成もできるなどメリットの多い方法です。
なお、地域医療で自院が担う役割のために病床機能を再編していくときは、自院が担う役割の重要性を周知することが大切です。特に急性期機能から他機能への再編を図る際、事業規模を縮小したというイメージが持たれると人材確保が難しくなる可能性があるため注意しましょう。
医療従事者の確保を進める以外にも、外部の医療資源を活用するという方法もあります。外部の医療資源とは、オンラインを介して利用できる遠隔医療サービスなど、医療機関の外側にありながら医療サービスの一部を担える人材や設備のことです。
例として、X線やCT、MRI検査などの読影業務を外部委託できる「遠隔画像診断サービス」の利用が挙げられます。遠隔画像診断サービスを利用すれば、従来自院でおこなっていた読影業務を、外部の企業や病院に任せることができ、業務の効率化につながるでしょう。
放射線診断専門医など読影に携わる医師への過剰な負担を防げるだけでなく、診療業務全体もスムーズに進むようになることで、医療従事者が働きやすい職場環境を作れます。
公的機関が用意する補助制度の活用
経営難に陥っている医療機関では、地域医療に取り組むための資金を確保できないことが課題となるケースもあります。公的機関が用意する補助制度を活用すれば、自院が選んだ病床機能・方向性に沿った取り組みを進めやすくなるでしょう。
例として、東京都が整備している民間医療機関向け補助金のうち、地域医療の実現に活用できる2つの支援事業を紹介します。
令和6年度医療機関診療情報デジタル導入支援事業
医療機関が電子カルテシステムの導入を検討する際に発生する、コンサルタント費用の一部を補助する制度です。電子カルテシステムの導入支援と医療情報の共有、連携促進を目的としています。
主な補助対象者は、東京都内において200床未満の病院もしくは有床診療所を開設し、東京都知事が適当と認める医療機関です。
令和6年度の本事業では、1医療機関あたり基準額100万円、補助率1/2での補助金支給を利用できます。
参考:東京都保健医療局ホームページ「令和6年度医療機関診療情報デジタル導入支援事業」
病床機能再編支援事業
医療機関の病床再編や、医療機関の統合などに取り組む医療機関に対し、給付金を支給する制度です。
対象事業は「単独支援給付金支給事業」「統合支援給付金支給事業」「債務整理支援給付金支給事業」の3つがあり、それぞれで支給対象者や支給要件、給付金の額に違いがあります。
地域医療への取り組みで病床数が減少したり、医療機関の廃止による未返済の債務があったりする場合に、利用を検討してみると良いでしょう。
地域医療への取り組みを進めることで、地域からの需要が高い医療を提供できるようになり、経営の安定化が期待できます。
情報共有システムの導入
医療機関間の連携における課題を解消する方法として、医療用の情報共有システムの導入が挙げられます。
医療用の情報共有システムとは、電子カルテなどの医療情報を異なる医療機関間で共有・管理できるシステムのことです。医療情報をオンライン上でやり取りできるようになり、情報共有にかかる手間や時間を大きく短縮できます。
患者様の同意もシステム内で取得できる仕様になっていれば、手間のかかる同意取得もスムーズにおこなえるでしょう。
ただし、地域の医療機関がそれぞれ異なる情報共有システムを導入すると、かえって連携がうまくいかない可能性もあります。取り扱うデータには患者様の個人情報が含まれるため、セキュリティ面も重視しなければなりません。
情報共有システムの導入を検討する際は、他院が導入しているシステムとの互換性があるか、高いセキュリティが備わっているかを確認しましょう。
まとめ
地域医療の課題とは、地域医療構想で定められている地域全体の医療体制を整備する際に、医療機関が直面する課題のことです。具体的には「医師・看護師の人手不足」「医療機関の閉鎖数の増加」「医療機関間の連携の難しさ」の3つが主な課題として挙げられます。
地域医療の課題を解決するためには、医療従事者の確保推進や補助制度の活用、情報共有システムの導入などが有効です。医療資源の確保に悩んでいる方は、業務の外部委託も検討すると良いでしょう。
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