Column コラム
2024.11.29
二重読影とは何か?その意義と行うべき理由を解説
検査画像を調べる読影業務において「見落としを防ぐ」「診断の精度を高める」などのメリットがある二重読影。特にがん検診のX線検査では二重読影が必須とされています。
一方で、二重読影には読影医の業務負担が増えるなどの課題もあります。がん検診を実施する医療機関の方は、二重読影にはどのような意義があるか・課題解決には何をすればよいかを知っておくとよいでしょう。
そこでこの記事では、二重読影の意義や行うべき理由、二重読影の課題を解決できるサービスなどについて詳しく解説します。ぜひ最後までお読みください。
二重読影とは
二重読影とは、X線検査や内視鏡検査などで作成された検査画像を読み解く「読影」を、2人以上の医師が別々に行う方法です。1人目が行う読影は一次読影、2人目が行う読影は二次読影と呼ばれます。
そもそも読影は、健康診断などの検査で撮影した画像を放射線診断専門医が確認し、異常がないかを調べる行為です。読影を行う放射線診断専門医は読影医とも呼ばれ、X線検査では一般的に放射線科医が読影を担当します。
読影によって病変などの異常が認められた場合は、読影医の所見として読影レポートに記載します。担当医は読影レポートをもとに診断するため、読影は患者さまの健康状態を評価する上で高い重要性がある作業です。
しかし、読影医にもミスは起こり得るものであり、読影時に見落としが発生する可能性はあります。見落としが発生すると正確な診断が行えず、結果として患者さまが適切な医療を受けられなくなるおそれもあるでしょう。
読影を2人以上の医師で行って、診断の精度を高めることが、二重読影の主な目的です。
二重読影は診断精度を高められる読影方法としていくつかの検査で実施されており、特定の「がん検診」では二重読影が必須とされています。
一部のがん検診は二重読影を行うことが定められている
がん検診とは、がんを早期発見するために実施する検査のことです。一部のがん検診では、二重読影を行うことが厚生労働省の指針で定められています。
そもそもがん検診には、対策型検診と任意型検診の2種類があります。
対策型検診は公共的な予防対策として実施される検診であり、厚生労働省によって実施体制や検査項目などの指針が定められています。一方で任意型検診は医療機関が任意に提供する検診で、検査方法などの指針は定められていません。
対策型検診で定められているがん検診の種類は、胃がん検診・肺がん検診・乳がん検診・子宮頸がん検診・大腸がん検診の5つです。そのうち「胃がん検診」「肺がん検診」「乳がん検診」で実施するX線検査では、二重読影を行わなければなりません。
対策型検診におけるがん検診について、厚生労働省の「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」の情報をもとに、二重読影に関する指針や関連情報を紹介します。
・胃がん検診の二重読影における指針 胃がん検診で行われる胃部X線検査では、撮影する画像枚数は最低8枚とされています。胃部X線写真の読影は、十分な経験を持つ2人以上の医師で行うことが原則です。 なお、胃がん検診の検診方法には胃部X線検査のほかに胃内視鏡検査もあります。対策型検診で実施する胃内視鏡検査では読影委員会による二重読影が必須です。 ・肺がん検診の二重読影における指針 肺がん検診で行われる胸部X線検査では、胸部X線写真を2人以上の医師が同時に、もしくはそれぞれ独立して読影します。読影する医師のうち1人は、十分な経験を持っていなければなりません。 読影結果の判定は、日本肺癌学会集団検診委員会が作成した「肺がん検診の手引き」の「肺癌検診における胸部 X 線検査の判定基準と指導区分」にもとづいて行います。 ・乳がん検診の二重読影における指針 乳がん検診で行われる乳房X線検査では、乳房X線写真を適切な読影環境の下で2人以上の医師が同時に、もしくはそれぞれ独立して読影します。読影する医師のうち1人は十分な経験を持つことが定められています。 適切な読影環境とは、読影室の照度やモニタ・シャウカステンの輝度などに十分配慮した環境のことです。 また、乳房X線写真の読影結果は、乳房の左右それぞれに分けて判定します。 |
厚生労働省:「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」
胃がん検診・肺がん検診・乳がん検診のX線検査は二重読影の実施が必要なだけではなく、読影の質についても指針が定められていることが特徴です。
特に、読影する医師のうち1人(胃がん検診の二重読影は原則として2人以上)は十分な経験を持つことと定められていて、読影医の経験が重視されています。対策型検診を実施する医療機関では、読影について十分な経験を持つ放射線診断専門医の確保が課題となるでしょう。
なお、二重読影で一次読影と二次読影の所見が分かれた場合の対応は、厚生労働省の指針においても明確に定められていません。二重読影を実施する機関によって「より重いほうの所見を採用する」「読影医の間で協議して総合判定をする」など、対応には違いがあります。
また厚生労働省の指針では、二重読影の結果に応じて、過去に撮影した対象部位のX線写真と比較読影をすることが望ましいとされています。
比較読影とは、過去に撮影した検査画像と現在の検査画像を比較し、過去から現在への変化を調べる読影方法です。二重読影の所見でがんが疑われる場合などに比較読影も行うことで、より詳しい検査が必要かどうかを判断できます。
二重読影を行うべき理由
対策型検診の胃がん検診・肺がん検診・乳がん検診を実施する医療機関は、厚生労働省の指針に従ってX線検査の二重読影を行う必要があります。
しかし、厚生労働省の指針で定められているという理由だけが、二重読影を行う意義ではありません。
二重読影は患者さまの病気の早期発見に貢献し、医療機関の信頼性を高めることにもつながります。がん検診を実施する医療機関は二重読影の必要性を把握して、適切な方法で二重読影を行いましょう。
以下では、医療機関ががん検診の二重読影を行うべき3つの理由を説明します。
見落としや診断ミスを防ぐ
二重読影を行うことで、腫瘍などの異常の見落としや診断ミスを防ぎやすくなります。
がん検診は患者さまのがんを発見することを目的とした検査であり、見落としや診断ミスは許されません。
しかし、読影は読影医自身の知識・経験をもとに行われるものであり、同一の画像であっても医師によって判定が分かれることがあります。
特に、職域で実施されるがん検診のように患者さまの人数が多いケースでは、読影する画像の件数が多くなり、1人体制の読影では見落としや診断ミスが発生しやすくなるでしょう。CTの多列化が進むことで撮影できる画像枚数も増えており、読影画像枚数の増加による業務負担は読影医に重くのしかかっています。
また、1人体制の読影は「画像の読み過ぎ」が起こりやすいという課題もあります。画像の読み過ぎとは、読影医が異常の見落としを防ぐために時間をかけて画像を読み、正常な部分にも疑いの所見をするケースが増えてしまうことです。
画像の読み過ぎが発生すると読影にかかる時間が増えるだけではなく、読影レポートの情報が多くなり過ぎて、読影レポートを読む側の医師にも負担がかかります。さらに要精密検査となる検査結果が多くなり、患者さまに不必要な検査負担をかけることにもつながるでしょう。
二重読影では、2人以上の読影医がそれぞれの知識・経験を用いて読影を行います。一方の医師がミスをしても、もう一方の医師によるカバーを期待できるため、見落としや診断ミスを防ぐ体制を構築することが可能です。
「見落としをしていないか不安だ」という読影医の心理的な負担も二重のチェック体制によって軽減されて、画像の読み過ぎを防ぐ効果も期待できます。
読影や診断の精度が向上する
二重読影によって見落としを防ぐと、読影そのものを正しい判断のもとで行えるようになり、診断の精度も向上します。患者さまに正確な検査結果を伝え、異常な所見がある患者さまには適切な医療を提供できるでしょう。
がん検診での読影の見落としはたびたび発生していて、後に腫瘍の増悪が発見されて裁判に至った事例や、患者さまの死亡に至った事例も存在します。がん検診を実施する医療機関にとって、読影の見落としによる診断ミスは患者さまの不利益につながるだけでなく、社会的な信頼も損なう問題です。
読影や診断の精度が向上することによって、患者さまにがんの疑いがある場合には精密検査の案内をして、がんの早期発見ができるようになります。検査結果にもとづいて患者さまが適切な治療を受けられれば、がん検診を提供する医療機関の信頼性も高まります。
がんの早期発見につながる
二重読影によってがん検診の精度を高めると、がんの早期発見につながります。
がんは早期の段階で発見したほうが治療は軽度で済み、がんを原因とする死亡も防ぎやすくなるなど、早期発見のメリットが大きい病気です。全国がんセンター協議会が公表する2011年~2013年の全症例によるデータでは、主ながんの5年相対生存率は以下の通りとなっています。
ステージI | ステージII | ステージIII | ステージIV | |
胃がん | 98.7% | 66.5% | 46.9% | 6.2% |
肺がん | 85.6% | 52.7% | 27.2% | 7.3% |
乳がん(女性) | 100.0% | 95.9% | 80.4% | 38.8% |
子宮頸がん | 93.6% | 82.2% | 67.9% | 26.5% |
大腸がん | 98.8% | 90.9% | 85.8% | 23.3% |
参考:全国がんセンター協議会「全がん協加盟施設の生存率協同調査」
いずれのがんもステージが進むほど5年相対生存率は低下しており、がんの早期発見が重要であることが分かります。
精度の高いがん検診を実施すれば、患者さまのがんを早期発見できるようになり、発見したがんの種類や状態に合った適切な治療を提供できます。がんを早期発見して患者さまの健康を守るためには、がん検診で二重読影を行うことが大切です。
二重読影の課題を解決できる遠隔読影サービス
二重読影は、1人体制の読影で発生しやすい見落としや診断ミスへの対策となるものの、全ての医療機関が簡単に実施できるわけではありません。
そもそも二重読影の実施には2人以上の読影医が必要であり、がん検診の二重読影では読影医の経験も求められています。
しかし、読影医として主に働く放射線科医は全国的に不足しています。
参考として、厚生労働省の調査では2022年12月時点における放射線科医の人数は7,288人でした。医師の総数が32万人超であるのに比べて放射線科医の人数は少なく、二重読影のために複数人の放射線科医を確保することは難しいといえます。
参考:厚生労働省「令和4(2022)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」
さらに、二重読影では画像を2人以上の読影医がそれぞれ判定するため、読影医の業務負担が増加することも課題です。
日本医学放射線学会が公表している資料によると、2015年度における日本の放射線科医1人あたりのCT・MRI検査件数は8,137件でした。アメリカやイギリスなどの他国では2,000~3,000件であり、日本の放射線科医は過重労働の状態にあるといえます。
参考:日本放射線学会「CT および MRI 検査における放射線科医の 潜在的業務量の国別および日本の地域別の差異」
放射線科医を確保できず、読影件数も多い医療機関では、「専門性のない医師に読影を割り振る」「読影医が疲労した状態で読影を行う」といった事態も起こり得ます。適切な読影体制を整えなければ、二重読影を実施しても見落としや診断ミスは防げません。
「放射線科医の不足」「読影業務の負担増加」という二重読影の課題に悩む医療機関の方は、読影を外部に委託できる遠隔読影サービスを利用しましょう。
遠隔読影サービスとは、医療機関の読影業務をオンラインで外部の読影事業者に委託できるサービスです。検査画像を送信すると、読影事業者に所属する読影医が読影を行った後、読影結果をまとめた読影レポートが返送されるという仕組みになっています。
遠隔読影サービスを利用すれば、読影業務を自院で行う必要がありません。二重読影の課題を解決しつつ、見落とし・診断ミスの防止や診断精度の向上といった二重読影のメリットを得られます。
遠隔読影サービスは読影事業者によって読影医の数・質や、対応可能な読影業務の幅に違いがあります。二重読影を委託するときは、放射線診断専門医による読影を行っていて、幅広い診療領域に対応できる遠隔読影サービスの利用がおすすめです。
まとめ
二重読影とは、2人以上の医師が検査画像の読影を行うことを指します。胃がん検診・肺がん検診・乳がん検診のX線検査では二重読影が必須です。
二重読影を行う意義は、読影時の見落としや診断ミスを防ぎ、診断の精度を高めることにあります。がん検診で二重読影を行えば、診断精度の向上によりがんの早期発見にもつながるでしょう。
イリモトメディカルでは、常駐する30名以上の放射線診断専門医や各科の専門医が読影業務に携わり、二重読影についてもご依頼日より3営業日で返信する読影体制を整えております。二重読影に課題を抱えている医療機関の方は、遠隔読影サービスの豊富な実績を持つ「イリモトメディカル」にご相談ください。