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2024.10.04

任意型検診と対策型検診の違いとは?分かりやすく解説

任意型検診と対策型検診の違いとは?分かりやすく解説

検診には「対策型検診」と「任意型検診」があり、それぞれ目的が大きく異なります。この2つについて、なんとなく違うことは把握していても、具体的にどのような違いがあるのかを明確に理解できていない方も多いかもしれません。

そこでこの記事では、任意型検診と対策型検診の概要や、任意型検診と対策型検診の違いについて分かりやすく解説します。

任意型検診と対策型検診について

任意型検診と対策型検診について

任意型検診と対策型検診の違いを知るためには、それぞれの概要を理解することが重要です。まずは、任意型検診と対策型検診について解説します。

任意型検診とは

任意型検診とは、個人を対象とした任意の検査のことであり、原則として費用は全額自己負担です。

また、任意型検診の対象者は無症状であることが条件とされています。そのため、何らかの症状を認める場合や、治療の必要性がある場合には対象者となりません。

任意型検診は検査方法もさまざまで、提供する機関によっても異なります。中には科学的根拠が確立していない検査方法もある一方、個人の状況に応じて自由に選択できることがメリットといえます。

対策型検診とは

対策型検診とは、集団を対象とした検査のことであり、公共な予防対策として全住民を対象に実施されます。そのため、検査費用の一部もしくは全部に公的資金が使用されます。

集団のがん死亡率の減少を目的として、罹患する人が多く、また確立された検査方法・治療方法があるがん種を検査の対象としていることが特徴です。

対策型検診には、「住民検診」のほか、職場などでおこなわれる「職域検診」や、学生を対象におこなわれている検診もあります。

また、対策型検診では、検査方法が科学的根拠に基づいた方法で実施されていることも特徴です。有効性が確立されていることが最大のメリットである一方、その検査方法で発見に至らないがんを発症している可能性もあります。

任意型検診と対策型検診の違い(比較)

任意型検診と対策型検診の違い(比較)

任意型検診と対策型検診の違いには、さまざまな項目が挙げられます。ここでは、任意型検診と対策型検診の違いや、対策型検診で実施されれている5つのがん検診と、任意型検診で実施されているがん検診との違いについて比較・解説していきます。

目的や対象者、メリット・デメリットの比較

任意型検診と対策型検診の目的、対象者、メリット・デメリットの比較は以下のとおりです。

種類任意型検診対策型検診
目的個人のがん死亡リスクを下げる集団のがん死亡リスクを下げる
概要医療機関や検診機関が提供する「人間ドック」など。利用者が任意で受けるもの。公共政策として自治体が提供する。学生・職域を対象に実施されるものも含む。
対象者明確に定義されていない。 ただし、何らかの症状を認める場合や診療の対象になる場合は該当しない。一定の年齢範囲にある全住民で、無症状・診療の対象にならない者。
メリット/デメリットの判断検診提供者が情報を提供した上で、利用者個人がメリット/デメリットを判断する検診提供者がメリット/デメリットのバランスを考慮し、メリットがデメリットを上回り、デメリットを最小化する
負担割合全額自己負担無料もしくは一部自己負担
検診方法科学的根拠が確立されている方法で実施されることが望ましい科学的根拠が確立されている方法で実施される

胃がん検査についての比較

胃がん検査について、任意型検診と対策型検診比較は以下のとおりです。

種類任意型検診対策型検診
検査方法バリウム検査、胃内視鏡検査等問診・バリウム検査もしくは胃内視鏡検査
対象者任意50歳以上
受診期間自由1回/2年

肺がん検査についての比較

肺がん検査について、任意型検診と対策型検診比較は以下のとおりです。

種類任意型検診対策型検診
検査方法胸部レントゲン検査・胸部CT検査・呼吸機能検査等問診・胸部レントゲン検査・喀痰細胞診検査
対象者任意40歳以上
受診期間自由1回/年

乳がん検査についての比較

乳がん検査について、任意型検診と対策型検診比較は以下のとおりです。

種類任意型検診対策型検診
検査方法マンモグラフィ、触診、乳腺超音波検査等問診・マンモグラフィ
対象者任意40歳以上
受診期間自由1回/2年

子宮頸がん検査についての比較

子宮頸がん検査について、任意型検診と対策型検診比較は以下のとおりです。

種類任意型検診対策型検診
検査方法問診、子宮頸部細胞診、内診、視診等問診・視診・子宮頸部細胞診・内診
対象者任意20歳以上
受診期間自由1回/2年

大腸がん検査についての比較

大腸がん検査について、任意型検診と対策型検診比較は以下のとおりです。

種類任意型検診対策型検診
検査方法便鮮血検査、大腸内視鏡検査、大腸レントゲン検査等問診・便潜血検査
対象者任意40歳以上
受診期間自由1回/年

任意型検診は原則として全額自己負担ですが、健康保険組合から補助金が助成されるケースがあるほか、国民健康保険の場合には、自治体から助成金が支給されることもあります。

また、任意型検診では検査方法もさまざまです。利用者の状況に応じて検査方法を選択できる一方、がん死亡率を減少させる科学的根拠が明確でないものもあります。

対して、対策型検診は公共政策であるため、原則として無料もしくは一部自己負担で受診することができます。対策型検診は、任意型検診と異なり科学的根拠に基づいた検査方法のみでおこなわれます。

任意型検診、対策型検診検診では、いずれもがんの早期発見によって救命の確立を向上させられることや、異常がなかった場合に利用者が安心感を得られることがメリットとして挙げられます。しかし、既に発症しているがんの発見に至らなかったり(偽陰性)、「がんの疑い」と診断されても精密検査の結果がんではなかったりする(偽陽性)ケースもあります。偽陰性や偽陽性と診断された場合には、利用者にとって精神的・経済的負担が生じることがデメリットといえます。

いずれもメリット・デメリットがあるため、利用者にとってメリットが上回る手段で実施することが推奨されています。

がん検診の重要性

がん検診の重要性

がん検診の重要性は、がんが日本人の死因第一位にも関わらず受診率が低いこと、受診することでがんの早期発見や早期治療につながることといえます。

ここでは、我が国のがん発症率や国民のがん検診受診率を踏まえ、がん検診の重要性について解説します。

死因第一位にも関わらず受診率が低い

がん検診の重要性には、がんが日本人の死因第一位にも関わらず受診率が低いことが挙げられます。

がんは昭和56年から変わることなく日本人の死因第一位に挙げられ、男性では2人に1人、女性では3人に1人が生涯でがんを発症するといわれています。そのため、厚生労働省では、がん政策としてがん検診の受診を推奨しています。

しかし、受診率は「がん対策推進基本計画」が目標とする60%以上に到達できていないことが現状です。平成28年に内閣府が実施した世論調査によると、「がん検診を受けたことがあるか」との問いに対し、「2年以内に受診した」と回答した人の割合は52.6%、「2年以上前に受診した」と回答した人の割合は13.8%、「受けたことがない」と回答した人の割合が33.4%であることが分かっています。

さらに、受診しない理由としては以下のような回答が得られています。

  • 受ける時間がないから(30.6%)
  • 必要性を感じていないから(29.2%)
  • 何かあれば医療機関を受診できるから(23.7%)
  • 経済的な負担になるから(15.9%)
  • がんと診断されると怖いから(11.7%)
  • 受診するのを忘れてしまったから(8.2%)
  • 検査によって生じうる苦痛に不安があるから(7.6%)
  • がん検診について知らなかったから(6.5%)
  • 受診する場所が不便だから(5.8%)
  • 受診しても見落としがあるかもしれないから(5.8%)
  • その他(7.6%)
  • わからない(3.9%)

(総数N=856人)

出典:内閣府大臣官房政府公報室「平成28年11月がん対策に関する世論調査」

このような結果から、受診率が低い多くの理由には、国民の多忙な生活背景のほか、がん検診の重要性を理解していないことも影響していることが分かります。

受診率が低いことで、既に発症しているがんの発見が遅れて死亡率が高まるほか、国民のがん予防への意識が低下することも想定されます。

政府では国民へのがん検診受診率向上を目指してさまざまな政策に取り組んでいますが、市区町村などの自治体や各医療機関、検診機関単体でも受診率向上に向けた対策を講じることが重要です。

出典:
厚生労働省「がん政策について」
国立研究開発法人国立がん研究センター がん情報サービス「がん検診受診率」

がんの早期発見と予防につながる

がん検診が重要性である理由として、受診することでがんの早期発見と予防につながることも挙げられます。

がんが早期に発見できることは、がん検診最大のメリットといえます。がんにはさまざまな種類や病態があるものの、多くは早期に治療することで進行を抑えたり、治癒を期待したりすることが可能です。治療を受ける上でも、早期であればあるほど身体的・経済的負担が少なく、利用者にとってもメリットが上回ることが想定されます。他にも、偶発的にがん前段階の病変などが発見できた場合、がんを発症する前に適切な治療を受けることでがんの予防にもつながります。そのため、受診することで利用者の生活の質(QOL)を向上させることにも役立つといえます。

受診率を向上させるためには

検診受診率を向上させるためには、検診についての必要性を利用者に理解してもらうことが重要です。

受診率が低い理由には、国民が必要性を理解していないことや、そもそもがん検診について周知していないことなどが挙げられます。

検診を提供しても、多くの人に受診してもらえなければがんによる死亡率を減少させることは困難です。そのため、医療従事者は、利用者にがん検診についての正しい情報を提供し、重要性を理解してもらう必要があります。そのためには、受診率を高い水準で維持している諸外国を参考にすることも有効です。

「組織型検診」が主体の北欧、イギリスや、任意型検診が主体のアメリカでも、検診受診率は高水準で推移しています。

組織型検診とは、がん死亡率減少効果をより高めるための政策としておこなわれている検診です。対策型検診の理想型とされており、より多くの人に受診してもらうための対策が講じられています。

日本の子宮がん検診・乳がん検診の受診率は、アメリカやイギリスと比較して半数程度といわれています。受診率の高い諸外国では、組織型検診の取り組みとして、検診の対象者に検診時期にパンフレットを送付したり、予約などの事務手続きをサポートしたりする対策が講じられています。「米国疾病予防管理センター」でも、受診率を向上させるための取り組みとして、パンフレットの送付や動画を用いた情報提供、医療従事者による利用者への教育などが有効と示しています。

しかし、国内ではこのような取り組みをおこなっている自治体は少ないことが現状です。受診率を向上させるためには、諸外国の取り組みも参考にしつつ、利用者に必要性を理解してもらうよう各機関で対策を講じることが重要です。

出典:
CDC community guide
大阪国際がんセンター「がん検診によるがんの早期発見」

まとめ

任意型検診と対策型検診の違いとは?まとめ

任意型検診と対策型検診は、目的や対象者、費用などが異なります。対策型検診は全住民を対象とするのに対し、任意型検診ではあらゆる人が任意で受診することができます。しかし、任意型検診、対策型検診ともに「がんによる死亡率の減少」が目的であり、がんの早期発見や早期治療に繋げる上で重要な役割があります。

対策型検診は、集団のがん死亡率減少を目指す上で科学的根拠に基づいた方法のみで検査がおこなわれます。一方、任意型検診では対策型検診より多くの検査方法で受診できるものの、中には科学的根拠が確立できていない検査方法も存在します。任意型検診、対策型検診ともにメリット・デメリットがあるため、検診提供者は利用者にとってメリットが上回るよう配慮することが重要です。

日本では、数十年に渡りがんが死因の第一位を占めています。しかし、依然として任意型検診、対策型検診問わず受診率は低く、目標に到達できていないことが現状です。医療従事者は、利用者に検診の必要性を理解してもらうよう、諸外国の動向も参考にしながら対策を講じることが重要です。

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