Column コラム
2017.07.30
STEMS seminar 2017
2017年7月26日から2泊4日でホノルルに出張してきました。夏休みのリゾート気分満載の家族連れに混じった出張でしたが、いたってまじめな目的のホノルル行きでした。目的はSTEMS(迅速遠隔医療支援セミナー)というセミナーに参加するためでした。
日本ではCTやMRIが普及し、救急医療の現場でも頻繁に活用されているというより、CT/MRIなしでは救急医療はなりたたなくなっています。しかし、それを誰が診断しているのでしょうか?CTやMRIの診断には専門家である放射線科医が必要です。放射線科医は少なく、昼間はまだしも、夜間・深夜の診断となるととても手が回りません。救急搬送された患者さんのCTで大動脈解離を診断できず、救命できなかったことはよく報道されることですが、それを救急医療担当医の責任にすることはあまりにも酷です。
よく,上級医師や放射線科医に携帯端末を持たせて、夜間救急の診断をさせるという話がありますが、非現実的です。自宅に帰っている時はプライベイトの時間です。当然、寝てもいるし、お酒を飲んでいることもあります。そのような状態の医師に診断させることは決していいことではありません。酒を飲んで車を運転することは厳禁ですが、患者さんの診断をすることなんて、もっと慎むべきです。
病院の外に画像を送り診断を行うことを遠隔画像診断といい、その技術は発達し、私の会社では全国約100施設から画像を送ってもらって診断をしています。この技術は海外でも応用は可能です。日本とハワイの時差は19時間です。日本の深夜帯12時から朝8時はハワイでは午前5時から午後1時にあたります。この深夜帯の救急患者さんの画像をハワイに送って、ハワイにいる日本人放射線科医が診断すれば、救急医療の質と安全性は格段にあがります。実際、ホノルルにお住まいの北之園高志先生が数年前からこのお仕事を始められ、実績を上げられてきました。
このセミナーはこの活動の有用性の評価と普及を目的として2年前から始まり、今回は国内開催を含めての4回目になります。わざわざホノルルまで行かなくてもという意見もありますが、セミナーでは実際の深夜の日本の救急センターと繋いでのデモも行われ、やはり経験しないと議論はできません。2年前の第1回セミナーではセミナー中に依頼元の救急センターに腹痛の患者さんが搬送されてきてCTを撮像し、患者さんの様子をSkypeで見ながら送られたCT画像を会場の参加者が一緒に診断するという貴重なシーンがありました。
会場はハワイ大学医学部の好意でキャンパス内の素晴らしいカンファレンスセンターを借りて行われます。今回はカンファレンス中に骨折疑いの患者さんの600枚のCTを送信され、20分後には米国本土にいる日本人放射線科医が診断してレポートをあげるという過程をホノルルの会場で確認し、この事業が実用的で有用であることが確認されました。また、参加できない日本の先生がSkypeで参加しての講演討論もあり、充実した内容でした。参加者は放射線科医だけではなく,救急医や遠隔ICU事業を始められた集中治療医も参加し、最終日にはじっくり討論する時間もとられました。また、タイからも放射線科医が参加し、タイの画像診断の実情を聞けたのも有意義でした。
北之園先生の始められたこの仕事は聖マリアンナ医科大学の先生たちも協力して事業化され、米国本土の先生も参加され、さらに普及しようとしています。私の会社イリモトメディカルもこの事業を行う株式会社STERSと提携いたしました。夜間救急医療の質と安全性向上に微力ながら貢献できればうれしく思っております。
さて、今回のホノルル滞在中に貴重な経験をいたしました。午後のミーティング中に始業直後の当社のオフィスから電話がありました。クライアントの病院から、昨夜撮影したCTを急いで見てくれとの依頼です。転倒した60歳代の男性患者さんが体の痛みを訴えておりCTを撮像したとのことです。まだ、留守番の医師が出てくるまでは時間があるので、私が読影することにいたしました。幸い、ほどなく午後の予定が終わりましたので、ホテルに帰りノートPCの診断ソフトを立ち上げました。私は出張中は通常の仕事はしませんが、このような時のために私の会社のシステムにアクセスできるノートPCを持ち歩いています。
画像を見たところ、膵臓のまわりに液体が貯留しています。急性膵炎の所見ですが、転倒後、訴えがあるということで、膵損傷の可能性もあるということで、造影剤を使ったCTを撮影することをおすすめしました。もちろん、報告書も書きましたが、こういう時は電話です。ほどなく、造影したCTも送られてきましたが、幸いにも出血はなく、保存的に治療ができそうでした。海外出張中でも緊急読影ができる準備をしていても、実際使ってみると、いろいろの問題点があることがわかりました。次の日には私が講演する時間がありましたので、早速、講演の内容を一部変更して、この経験を報告させていただきました。その意味では大変有意義なホノルル出張でした。